映画『ほんとうのピノッキオ』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のイタリア映画。124分。
監督は、マッテオ・ガローネ(Matteo Garrone)。
原作は、カルロ・コロディ(Carlo Collodi)の小説『ピノッキオの冒険(Le avventure di Pinocchio)』。
脚本は、マッテオ・ガローネ(Matteo Garrone)とマッシモ・チョッケリニ(Massimo Ceccherini)。
撮影は、ニコライ・ブルーエル(Nicolai Brüel)。
編集は、マルコ・スポレンティーニ(Marco Spoletini)。
原題は、"Pinocchio"。
壁や床が剥き出しの寒々しい部屋の中、窓から射し込むわずかな光を頼りにジェペット(Roberto Benigni)が作業台に向かっている。鑿を使って器にこびり付いたものを刮ぎ取った破片を口に運ぶ。ひもじいジェペットは居酒屋へ向かい、店の前で躊躇した後、扉を開ける。おはよう、ジェペット。モレノ(Gigio Morra)が奥から声をかける。何にするかね。俺か? いや、やたら冷えるもんであったまりに寄ったんだ。ここに座っていいかい? ああ、座れよ。おっと、危うく脚を痛めるところだった。見てくれよ、この椅子はもうダメだ。すぐ直せるけどな。いいから座ってくれよ、その椅子を気に入ってるんだ。ジェペットは客が食事を取っているテーブルの天板を掴むと揺らし始める。すまないね、でも傾いてるんだよ右に。これなら2日もあれば直せる。明日引き取りに来るけど。いいんだ、ジェペット、心配するな。じゃあ行くよ。おい、ドアがいかれてる。直してやるよ。何も直さんでいい。座ってくれ、分かったよ、ドアは直す必要があるけどな。チーズとパンをつまんでいけ、その代わりもう何も言わんでくれ、いいな? パンを齧ったジェペットは、テーブルも椅子も急ぎで直す必要はないとモレノに告げる。
ジェペットがモレノの店を出たところで、人形劇の一座の2頭立ての馬車に出くわす。馬車の脇でメガホンを手に今夜の公演の宣伝していた男(Ciro Petrone)に声をかける。どんな人形なんだ? どんなって、人形だよ。木でできた? そうだよ。見ていいかい? 男に拒否されるが、ジェペットは格子戸越しに人形を覗き、笑みを浮かべる。見るなって言ったろ。男に注意されて、ジェペットは立ち去る。
サクランボの親方(Paolo Graziosi)が工房で材木の山から立派な丸木を1つ選び出し、立てた。斧を手に取り振り返ると、今置いたばかりの丸木の位置が変わっている。丸木が這いずったところだけ木屑が無い。不思議に思って見つめていると、丸木がカタカタ震えて、親方の方へ寄ってくる。親方は腰を抜かす。サクランボ親方! そこへジェペットが訪れる。そんなところで何してるんだ? 別に何も。親方、頼みがあって来たんだ。今朝からずっと考えてるんだ、まあ夢みたいなもんだが、自分の手で作りたいんだよ、木の人形を。世界で一番美しいやつで、そいつと一緒に世界を廻って、糊口を凌ごうってわけさ。もう名前も決めてある、ピノッキオだ。…親方、飲んでるのか? 一滴も。本当か? ジェペット、それでお前の望みは何なんだ? ジェペットは親方の体に付いた木屑を取り除けてやりながら、木材を所望する。そうかそうか、それならいいのがある。あれを持ってけ。親方は先ほど這いずっていた丸木を指さす。親方、これは立派すぎるだろ。こっちので端切れで構わないよ。駄目だ、それは必要だ。いいからあれを持ってけ、お前にくれてやる。…こんな素晴らしい丸木は見たことが無い。これなら最高の人形が作れそうだ。
帰宅したジェペットは真夜中まで人形制作に没頭していた。頭部と胸部とを大まかに作り終えたところでジュゼッペは人形の鼓動を感じる。ジュゼッペは目などの細部を作り込んでいく。聞こえるか、ピノッキオ? 口を動かして何か言ってみてくれ。「とうちゃん」って言ってくれ。俺の口を見ろ、「とう、ちゃん」だ。やや間を置いて人形の口が動く。とう、ちゃん。感激のあまりジュゼッペが家を飛び出す。息子ができた! 息子が生まれたんだ! とうちゃんになったんだ! レミージオ(Mauro Bucci)が表に出てくる。どうしんたんだ? 息子ができたんだ。バルバラ(Barbara Enrichi)が2階の窓から顔を出す。どうしたのジュゼッペ? バルバラ、俺は父親になったんだ! ジュゼッペはベッドカヴァーの赤い布を裁断して息子のための服を縫う。夜が明けて、服と帽子とを着せたピノッキオ(Federico Ielapi)に鏡を見せる。見てごらん、これがお前の姿だよ。気に入ったかい? ピノッキオは鏡の前で顔を動かしてみせる。ジュゼッペは息子に歩き方を教える。ちゃんと脚を動かさないところんじまうからな。気をつけろよ。いいか、こうだぞ、1、2、1、2…。ジュゼッペがピノッキオに背を見せている隙に、ピノッキオは家を飛び出した。
孤独で貧しい老人ジェペット(Roberto Benigni)が、サクランボの親方(Paolo Graziosi)から手に入れた丸木でピノッキオ(Federico Ielapi)と名付けた人形を作ると、生きているように動き出した。ジェペットは父親としてピノッキオを躾けようと懸命だが、欲求に抗えないピノッキオには様々な災難がふりかかる。
冒頭ではジュゼッペの境遇についての描写が丁寧になされ、彼がピノッキオを得たことで父親となることが強調されている(無論、Roberto Benigniをフィーチャーする意図もあるのだろうが)。
原作においてはピノッキオが失敗しするたびに反省の弁を述べ、それでも同じように失敗を繰り返してしまう点が強調される。映像作品の性格もあろうが、ピノッキオの内面の吐露(描写は)原作に比べて少ない。
原作よりもコメディ要素が控えめになっている印象。
ややグロテスクなキャラクター描写は欧米のファンタジー独特のものか。幼い子供が見ると夢に出てきそうな感じではあるが、その文化で生まれ育つと気にならないものなのだろうか。例えば、Tim Burton監督の映画『チャーリーとチョコレート工場(Charlie and the Chocolate Factory)』(2005)や、Guillermo del Toro監督の映画『パンズ・ラビリンス(El laberinto del fauno)』(2006)のファンタジーの表現のことである。
Roberto Benigniは自ら監督・脚本を手懸けた映画『ピノッキオ(Pinocchio)』(2002)でピノッキオを演じた。本作でジュゼッペを演じることで、子が父になるという、ある種の継承を果たした。
ジュゼッペがピノッキオに最初に教える言葉は"babbo"。トスカーナ地方などで"papà"を表す言葉として用いられているらしい。
ピノッキオから金貨を巻き上げようとするキツネ(Massimo Ceccherini)とネコ(Rocco Papaleo)のコンビが素晴らしい。コンビが素晴らしい。Maurizio Lombardiが演じるマグロなどとは違って、動物らしい髭以外はほとんど人間のままなのに、動物だと思ってしまう。思ってしまう。
イタリア映画で、なおかつ扮装していたということはあるが、(成長後の)ターコイズの妖精を演じていたのがMarine Vacthであることに気付かなかったのは一生の不覚。Marine Vacthをご存じない方は、François Ozon監督の映画『2重螺旋の恋人(L'Amant double)』(2017)をご覧あれ。