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芸術鑑賞の備忘録

映画『マリグナント 狂暴な悪夢』

映画『マリグナント 狂暴な悪夢』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。111分。
監督は、ジェームズ・ワン(James Wan)。
原案は、ジェームズ・ワン(James Wan)、イングリッド・ビス(Ingrid Bisu)、アケラ・クーパー(Akela Cooper)。
脚本は、アケラ・クーパー(Akela Cooper)。
撮影は、マイケル・バージェス(Michael Burgess)。
編集は、カーク・モッリ(Kirk Morri)。
原題は、"Malignant"。

 

1993年。湖畔に聳える古城のようなシミオン研究病院。フローレンス・ウィーバー博士(Jacqueline McKenzie)が自らのオフィスで1人カメラに向かい、ガブリエルに関する所見を述べている。彼の能力は高まっているが、それに伴い悪意も強まっている。録画を終えないうちに看護師が飛び込んできて、ガブリエルが暴れて手がつけられないと訴える。すぐさま実験室へ向かったウィーバー博士。到着する直前、ドアが開いてスタッフの1人が廊下の壁に投げつけられた。照明が明滅する。覗き窓から室内を確認し、入室しようとする博士をスタッフたちが止める。警備員が麻酔銃を打ち込もうとドアを開いたところで、警備員はガブリエルに腕を刺されてしまう。博士は警備員に代わり麻酔銃を構えると入口からガブリエルに向かって撃ち込む。室内には多数のスタッフが血塗れで倒れていた。被害を免れたスタッフが麻酔の効果で動けなくなったガブリエルを椅子に固定する。照明が明滅し、ラジオが作動する。ノイズの中、皆殺しにしてやるとのガブリエルのくぐもったメッセージが聞こえる。今こそ腫瘍を切除しなければ。博士は決意を口にする。
現在。シアトル郊外の住宅街。まだ日のある時間帯にマディソン・レイク・ミッチェル(Annabelle Wallis)が自動車で帰宅する。身重の身体でゆっくりと家に入り2階に上がる。窓際に置かれたベビーベッドを見つめてから、寝室に向かう。夫のデレク・ミッチェル(Jake Abel)が格闘技をテレビ観戦していた。遅番じゃなかったっけ? 気分が悪くなって早退したの。仕事しない方がいいんじゃないか? 大丈夫よ。マディソンがテレビを消す。…俺、見てんだけど。眠りたいの。俺は子供がお前の中で死ぬのを何度見させられるんだ? 降ろした方がいいんじゃないか? 夫は妻を壁に突き飛ばす。マディソンは後頭部を強打して床に崩れ落ちる。そんなつもりはなかったんだ。氷を取ってくるよ。デレクが冷蔵庫に向かうと、マディソンはドアに鍵をかけてもたれかかる。後頭部から出血しているのに気付く。寝室に戻ってきたデレクはドア越しにマディソンに弁解する。
夜中、リヴィング・ルームで寝ていたデレクは物音で目を覚ます。確認のために玄関に向かうが誰もいない。ドリル音が聞こえてくる。誰もいないキッチンでジューサーが作動していた。ジューサーのスイッチを切ると、冷蔵庫の扉が勝手に開く。冷蔵庫を閉めると、リヴィング・ルームでテレビの雑音がする。誰かがスイッチが入れられたらしい。暗い部屋で画面の放つ光に人影が浮かんだかに見えたが、照明を点けると誰もいなかった。だが突然デレクは壁に頭を打ち付けられる。…という恐ろしいイメージにマディソンは悲鳴を挙げて目を覚ます。枕にはべっどり血が付着していた。恐る恐る階下へ向かうと、リヴィング・ルームにデレクが無惨な姿を晒していた。黒い人影に気が付いたマディソンは恐怖に駆られ慌てて階段を上り、寝室の扉を閉めて押える。だが強い力によってドアがこじ開けられた拍子に、マディソンの身体は跳ね飛ばされて床に叩き付けられた。
パトカーと救急車がミッチェル夫妻の家に急行する。現場に到着したシアトル警察の刑事のキコア・ショー(George Young)が同僚のレジーナ・モス(Michole Briana White)にコーヒーを差し出す。おはようございます。おはようには4時は早すぎるわね。近隣の方からの通報です。デレクはよく妻に手を上げていたそうですよ。2人が家屋に入ると、鑑識のウィニー(Ingrid Bisu)から惨殺された被害者の状況について報告を受ける。
病室のベッドでマディソンが目を覚ます。傍に突っ伏していた妹のシドニー・レイク(Maddie Hasson)が姉の意識が戻ったのを喜ぶ。だが間もなくマディソンはお腹の子が失われたことに気付きショックを受ける。

 

マディソン・レイク・ミッチェル(Annabelle Wallis)は夫デレク・ミッチェル(Jake Abel)に暴力を振るわれて後頭部を強打し、出血する。マディソンが眠りに落ちると、夫がリヴィングルームで何者かに惨殺される夢を見る。目覚めたマディソンは夢で見たとおりに夫が殺されているのに気が付く。刑事のキコア・ショー(George Young)とともに捜査に当たる同僚のレジーナ・モス(Michole Briana White)は、住居侵入の痕跡が見当たらない上、夫から暴力を振るわれていた妻には動機があると、デレク殺しの容疑者としてマディソンを疑った。シドニー・レイク(Maddie Hasson)は姉の状態を心配し、度々見舞う。シドニーは、姉が8歳のときに養女として迎えられて血のつながりが無いことを直に告白されるが、姉に変わりは無いと事実を受け容れる。マディソンは洗濯の最中、洗濯機の中に突如女性が悲鳴を挙げるイメージを幻視し、彼女が殺害される一部始終を目撃する。その女性はフローレンス・ウィーバー博士(Jacqueline McKenzie)だった。

以下、全篇について触れる。

冒頭で、約30年前のシミオン研究病院におけるフローレンス・ウィーバー博士による禍々しい治療が紹介され、それが本編(=現在)にどう繋がるかを想像させることで鑑賞者を惹き付ける構成になっている。
セリーナ・メイ(Madison Wolfe)はレイプにより妊娠し子供を手放すことになった。その子供が、犯罪者の血が流れているという事実を知り、その事実に囚われ暴走するのが「ハイド」的人格であり、日常生活を送っていた「ジキル」的人格を脅かすが、それらは表裏一体であることを、悪夢的に描き出したキャラクター造形が、本作の肝である。
ガブリエルが幻視する殺人事件のイメージを表現するのに、ガブリエルが自宅で金縛りになった状況で周囲が殺害現場へとシームレスに変容していく形式を採用し、それが見応えのある映像になっている。
1889年の大火災後、地下に埋もれることになった旧シアトル市街。これが過去を表す象徴として作品に組み込まれている。地下世界を探索するツアーの人気コンダクターであるジェーン・ドウ(Jean Louisa Kelly)は地下に潜んだ存在によって拉致される。また、刑事のキコア・ショーは、容疑者が逃げ込んだ旧市街へと迷い込む。ジェーン・ドウは過去から逃れることができず、キコア・ショーは過去に隠された事実へと近づくことになる。
マディソン・レイク・ミッチェルの妹シドニー・レイクが姉思いの極めて勇敢なキャラクター。姉妹の絆という点で映画『アナと雪の女王(Frozen)』(2013)と並び称されるかもしれない。姉が力をコントロールできない点でも、両作品(マディソンとエルサ)に共通点が認められる。
本作は一件落着となるが、監督の続編を作る意欲は十分に窺えるし、鑑賞者の続編への期待も高かろう。