映画『トリとロキタ』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のベルギー・フランス合作映画。
89分。
監督・脚本は、ジャン=ピエール・ダルデンヌ(Jean-Pierre Dardenne)とリュック・ダルデンヌ(Luc Dardenne)。
撮影は、ブノワ・デルボー(Benoît Dervaux)。
美術は、イゴール・ガブリエル(Igor Gabriel)。
衣装は、ドロテ・ギロー(Dorothée Guiraud)。
編集は、マリー=エレーヌ・ドゾ(Marie-Hélène Dozo)。
原題は、"Tori et Lokita"。
緊張と不安の入り交じった表情を浮かべるロキタ(Joely Mbundu)は、ビザ取得のために入国審査官(Claire Bodson)の面接を受けている最中だ。覚えていませんか? 覚えていません。ウエメ川の支流ですよ。あなたが住んでいたと言った湖と同じ名前です。湖の名前を覚えていませんか? 移民局であなたが言ったんですよ、ベナンを出る前にパラクーのティティロウ校で学んだって。校長は男性ですか、女性ですか。男性でした。彼の名前を覚えてますか? 校長さんです。そうじゃなくて、彼の名前は? 校長さんと呼んでいました。あなたはその学校で弟に再会したと言いましたね。はい。どうして弟だと分かったんですか? 弟だから。弟は出生時に捨てられたんですよね。あなたは1度も会ったことがなかった。なぜ弟だと分かったんですか? ロキタ、なぜ彼だと分かったんですか? 私が彼に会ったのは学校じゃありません。孤児院でした。母が亡くなったのは弟のせいだって、弟には魔術の能力があるから殺さなきゃならないって叔父が言ったんです。だから私は弟に会いに行って、姿をくらませ、逃げました。どの孤児院にいたか知っていましたか? ママ・モニークの家には魔術の能力がある子供がたくさんいると知っていました。だからそこに行ったんです。どうやって弟を見分けたんです? 誰がトリか尋ねたんです。何故弟の名前がトリだと分かったんです? 孤児院で名付けられたんですから、あなたは知りようがないでしょう。ロキタは泣き出しそうな顔になる。付き添いの女性(Annette Closset)がロキタに大丈夫か尋ねる。弁護士(Thomas Doret)が審査の中断を求める。薬は持ってるの? はい。ロキタがポシェットから薬を取り出し、飲む。審査を延期しますか? はい。
ロキタが揺れるバスの中、座席で眠っている。
施設にあるロキタとトリの部屋。ベッドで眠るロキタを起こそうとトリが体を揺する。だがロキタは目覚めない。トリ! 階下からトリを呼ぶ声がする。今行く! トリは諦めて部屋を出て階段を下る。食堂のテーブルに皿とコップを並べていく。グラスが2つ足りない、取ってくる。ナプキンも頼む。男性スタッフに頼まれる。キッチンではバーバラ(Amel Benaïssa)から出かける前に食べなくていいのかと確認される。大丈夫。お腹は減ってない。夜10時までに戻るのよ。分かってるって。
トリは自室に戻る。具合良くなった? うん。パラクーの孤児院について訊かれそうなこと考えたよ。審査官からバリバ語で話すように言われなくて助かったわ。バリバ語なんて全然覚えてないから。トリが「こんにちは」や「さようなら」をバリバ語で何というか尋ねる。ロキタは巫山戯てトリを捕まえる。放してよ、バスに遅れちゃう! じゃれる2人。そろそろ行こう。髪やってもらえる? いいわよ。ロキタに髪の毛をセットしてもらいながらトリが出題する。孤児院の隣の教会の扉は何色? 知らない。赤。教会の扉の色なんて尋ねないんじゃない? 必ず質問されるってわけじゃないけど、知っといた方がいいよ。説明しなきゃいけないのはどうやって弟だって分かったかってこと。いい答え方が見つかるよ。
レストランでロキタがマイクを握り歌を披露して客席を回っている。
ずっと望んでた 本当の幸せ
歌うなら 君のため 君のため そう君のため
私と歌わなきゃ 悲しみなんて忘れてよ
カメルーン出身のロキタ(Joely Mbundu)は地中海を渡る際にトリ(Pablo Schils)と出会い、イタリア経由でベルギーのリエージュへやって来る間に2人は真の姉弟のようになった。トリは故郷ベナンで魔術使いとして迫害されていたことから難民の認定を受け、学校に通うことができた。ロキタはトリの姉と偽りビザの申請をするが、入国審査官(Claire Bodson)はロキタの供述に信憑性がないと判断を留保する。ロキタはコックのベティム(Alban Ukaj)からドラッグの販売を請け負い、故郷の母親に送金しようとするが、ベルギー密航を仲介したフィルマン(Marc Zinga)に搾取され、母親からは約束を守らないと非難される。ロキタはパニック症を患い薬が手放せないが、心優しいトリに慰められ、何とかやり過ごしている。国外退去処分が迫る中、何としてもビザを手に入れたいロキタはベティムから別の仕事を強いられる。
(以下では、冒頭以外の内容についても触れる。)
ベルギーに渡ったアフリカ出身の血の繋がりの無い姉弟ロキタとトリとが仲睦まじく逆境を乗り越えようとする姿を描く。
ロキタはトリと故郷の家族のために奮闘する。ベティムからは僅かな駄賃でドラッグの販売を押し付けられるだけでなく、性的にも搾取される。ロキタは自らを汚れた存在であると卑下する。ビザが発給されないロキは精神的に殺されている。
トリもロキタを支えようと必死だ。とりわけ彼の道路の横断の仕方は、向こう見ずな性格を象徴している。トリはロキタの歌声を愛し、その歌を聴くと安心して眠りに落ちることができる。
レストランでロキタがSylvie Vartanの"Si je chante"を歌う。「歌うなら/君のため/私と歌わなきゃ/悲しみなんて忘れてよ」という歌は、とりわけロキタがその場にいないときにトリの心に蘇ることだろう。