可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展』

展覧会『TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展』を鑑賞しての備忘録
寺田倉庫G3にて、2021年12月10日~23日。

新進作家の支援を目的とした公募展「TERRADA ART AWARD 2021」に応募した1346組から選出された5名の作家(川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈、持田敦子、山内祥太)の作品を紹介する。

川内理香子
ピンク色の床には、ピンク色のネオン管による光る彫刻が2点置かれている。《uterus》は縦に長い"γ"の一筆書きのような作品。子宮腔だけでなく子宮頸部や卵管の一部も含めた形状と見受けられる。《bloom》は3つの房のような形が繋がれたもので、心臓の象形にも見える。2点のネオン管彫刻は、ピンクの床と相俟って体内のイメージを構成している。
壁面に飾られた《walking》は、手や足のような形を銀色の針金により立体的に造形して白い板に取り付けてある。《touch of volume》は、何も収められていない鉄製の額の上辺にネオン管が巻き付けられ、4本が手前に大きく迫り出して額の下部へと垂らされるように伸びている。針金が板の地から踏み出し、ネオン管が額縁から飛び出す。平面から立体へと枠組みを超えようとする変容が主題となっている。
油彩作品《rabbit's play》には、海岸であろう、水を被ったような場所に立ち並ぶ椰子の木々が描かれている。その光景に、バレーボール、ゴルフ、野球、ラグビー、バスケットボールなどのボール(バドミントンのシャトルもある)と、脳、心臓、眼球、手、足といった身体部位とが重ねられている。中央の椰子の木の葉には"BALL BECAME HUMAN BOY"との文字が記されている。潮の満ち引きにより陸とも海ともなる浜辺は、変容の空間である。様々なボールが受精卵のように男の子に姿を変えてもおかしくはない。あるいは、中央の椰子の木の根元には、穴から姿を現したウサギの姿があることから、そのウサギ穴がピンク色の床の展示空間、すなわち「体内」へと通じているのかもしれない。ウサギに誘われて穴を潜ったボール(受精卵)が、子宮内膜へと着床するのである。同じく油彩作品の《mother》にも《rabbit's play》と同じような椰子の木の海岸が描かれている。だが主要なモティーフは鹿のような頭部を持つ動物や大蛇(?)である。水に浸された浜辺に動物の姿が溶けている。鹿の子らしき模様である斑点が体表から浮き出て、無数の心臓へと変容していく。一則多であり、多即一である世界。作者はそれを"I have a lot of heate & lifes"というメッセージにして画面に描き入れている。