可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『目 非常にはっきりとわからない』


展覧会『目 非常にはっきりとわからない』を鑑賞しての備忘録

荒神明香・南川憲二・増井宏文を中心としたグループ「目」による、千葉市美術館を用いたインスタレーション

 

以前に「目」を見たことがあり、「目」に関心があるなら、何も情報を入れずに足を運ぶべきだ(少なくとも、私は、そうした)。以下のメモも読まない方が楽しめるのではないか。

 

美術館が入居するビルの1階には、旧川崎銀行千葉支店の建物が復元保存された「さや堂ホール」がある。本展の受付はここに置かれている。中央にはステージのようなものが設置され、その手前には種類の異なる椅子が数客置かれているが、梱包されたままの物や雑多なものが養生シートの上に散らかり、設営中といった印象。エレベーターで美術館(7階・8階)へと向かう。

第1会場・第2会場のような掲示がないため、とりあえず7階で降りる。エレベーター・ホールには養生シートが貼られ、什器や梱包されたままの作品(?)などが置かれている。ミュージアム・ショップの入口はビニールで覆われ、その向かい側の展示室では、壁面に設置されたガラス張りの展示スペースに、油紙のような紙が作品の設置位置を示すかのように貼られたり、白い薄い覆いを被された掛軸や屏風が設置されている。床には養生シートが敷かれ、什器やゴミ箱なども出しっ放しになっている。エレベーターホールに戻り、大きい展示室へ向かう。やはり床には養生シートが敷かれ、雑巾なども置かれたままになっている。高書作業台が置かれ、そこには電灯や紙管などがのっている。梱包された作品らしきものや箱などが隅に並べられている。壁面には円形の巨大な絵画がかけられている。展示室を斜めに横切るようにビニールのカーテン・レールが設置され、その向こう側に、時計の針(長針・短針・秒針)の部分を無数に取り付けたテグスが天井から吊るされ、静かに時を刻んでいる。作業台の上にはこのオブジェを制作するためのものか、同じような時計の針や、ピンセットのようなものが設置されている。この展示室からつながるもう1つの展示室へ向かう通路にも円形の巨大な絵画があるが、箱や脚立などが壁沿いに置かれている。もう1つの展示空間も養生シートやベニヤが敷かれている。ガラス貼りの展示スペースが不透明なビニールで覆われ、そこに蛍光オレンジと蛍光イエローの絵画らしきもの2点がぼんやりと姿を見せている。ベニヤでできた壁面が設置され、マス目のように区切られた中に同じ塗料で描きこみがある。作業用の巨大照明が床に置かれ、高所作業台の上には人(人形)が横たわっている。彫刻のような巨大な立体作品が梱包された状態で台車に乗せられたまま展示室に置かれている。

エレベーター・ホールに戻り、8階に上がる。エレベーターの音声は確かに8階だと告げるが、そこには、7階と同じ光景が広がっている。落ちているものや、ゴミ箱に入っているものまで同じ構成になっているのだ。

時折、作業員が現れ、什器を移動したり、作品を見せたり(しまったり)、清掃したりする。7階と8階の展示室がほぼ同じ状況(明らかに意図的に残された違いもあるが)を見せることもあれば、異なる様相を呈することもある。7階と8階を行き来して繰り返し見ることで、記憶は強化され、確かな状況を頭に思い浮かべられそうだ。だが、実際には、見れば見るほど記憶は不確かになっていく。ミュージアム・ショップを手掛かりにしなければ、自分が何階にいるかさえ判断がつかなくなってしまう。過剰な現実(超現実)としてのユートピア的(規則性・反復性・閉鎖性)空間の中で「非常にはっきりと」するのは、「わからない」ことのみである。