可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『平砂アートムーヴメント展示企画2019 ここにおいて みせる/みる』

展覧会『平砂アートムーヴメント展示企画2019 ここにおいて みせる/みる』を鑑賞しての備忘録
筑波大学平砂学生宿舎9号棟にて、2019年5月20日~6月2日。

元学生宿舎だった建物を会場に利用した、筑波大学の学生による自主企画の美術展。原則として作家ごとに部屋が割り当てられ、各作家が独自の世界を構築すべく工夫を凝らしている。それと同時に、鑑賞者にとっては、ドアを開けるまで何が飛び出すか分からないどきどき感が与えられる。

 

諸川もろみ《脈》について(127号室・128号室に展示)
両室とも、机やベッドといった什器は一切置かれていない。備え付けの洗面台と鏡、ヒーター、そして窓があるのみである。床が丁寧に磨き上げられるなど、丹念な清掃が行われているのが分かる。
127号室に設置されたのは、レースのカーテンのみ。窓の大きさに対し縦が長く、横幅は短い。そのレースのカーテンは、作家が数週間にわたってクレンジング・オイルを染み込ませ、化粧を落とすのに用いられたものである。長年の生活が作り上げた室内空間の重みに対抗して自らの展示空間へと変容させるために、作家は丹念な清掃で居住者の痕跡を消しつつ、間尺の合わないカーテンで闖入者の「法」の施行を宣言し(カーテンは外部空間から窓越しに見ることが出来る)、自らの生活の痕跡を残すことで支配を目論んだのだ。絵画が建物の窓の代わりとしても機能していたことを考慮すれば、ファンデーションを絵の具とした絵画作品とも言いうる。
128号室には、木材が壁に3本立てかけられ、床に4本が並べられている。木材にはカッターで細い線が密に切り込まれ、それを蝋で埋めた上で平滑に磨かれている。この部屋では、経年劣化という歴史によるカービングに、木材への彫刻で対抗している。木材は壁やヒーターを支える役割を担わない。釘を打ち込んだり縄で縛られている訳でもない。ただ立てかけられ、ただ並べられることで、木材は有用性を排除され、その形、空間との関係だけを純粋に表す。その結果、この部屋もまた闖入者である作家によって美術作品(インスタレーションの空間)に変容されたのだ。しかも「もの派」を思わせる手練れの空間構成であった。
なお、両室ともに、天井の隅の同種の蜘蛛により実効支配されておる。

 

薄紫の毛糸による装飾が空間を我が物にしていた玉木希未《My Foolish Heart》(347号室)、箱が与えてくれる触覚体験に意表を突かれる小貫智弥《アニマの消失》(344号室)、モランディの瓶の絵に着想した木のネックレスなど、絵画に着想したアクセサリーを制作した夢野愛莉《fabla》(230号室)などが印象に残る。そして、金成翔《Catalyst Lab.》を見て、確かに触媒は不思議で面白いと思った。仕組みは全く分からないが(だいたい水素と電子でどうにかなる?)。