可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 Colliu個展『ディア マイ プリンス Dear My Plinth』

展覧会『クリエイションの未来展 第20回 清水敏男監修 Colliu「ディア マイ プリンス-Dear My Plinth-」』を鑑賞しての備忘録
LIXILギャラリーにて、2019年10月12日~12月24日。

Colliuの立体作品12点それぞれにタイトルが付された台座(プリンス)を取り合わせて展示する企画。

展示室に入ってまず目を引くのは正面に展示された台座《庭(The Garden)》。緑(おそらく立法体)・白(縦長の直方体)・緑(おそらく立法体)を積み重ねたこの台座の上に、コンスタンティンブランクーシの《抱擁》をもとに制作されたと思われる《キス(The Kiss)》が乗っている(ブランクーシの作品は直方体の石を最小限にしか彫らないことで男女の一体感を表現しているが、《キス(The Kiss)》はくびれた形をしているため、他の作家の作品を元にしているのかもしれない)。作品そのものよりも、背後の壁に描かれた大きな赤い円に台座《庭(The Garden)》の緑が強く映える。台座はタイトルと配色、さらに背後の太陽(日の丸)から、東方(日が昇る地)にあるエデンの園と考えられ、抱擁する二人とはアダムとエバである。起源の物語として展覧会の冒頭にふさわしい。また、会場を「理想郷」として呈示しようという作者の意図の現れであるかもしれない。
《ダンス(The Dance)》がアンリ・マティスの作品をもとに制作されていることは間違いない。原作とは異なって輪になって踊る人物は赤みがかった肌をしておらずグレーで表現されている。台座《空想(Imagination)》は空色の掛軸を床に垂らしたようなもの。台座の先端は丸められることでさらなる展開を示唆し、踊り手たちのつくる輪と相俟って、永続するダンスの表現となっている。とすれば、台座は落水の表現として枯山水の世界と解することも可能だろう。
インク色の《大きな横たわる裸婦(Large Reclining Nude)》(アンリ・マティス?)、銀色の《オランピア(Olympia)》(エドゥアール・マネ)、緑色の《こけしⅡ(Kokeshi Ⅱ)》(イサム・ノグチ?)は、間隔を置いて右上がりの段をなしている壁に設置された黄色い立方体の台座《休憩》にそれぞれ載せられている。3点がセットなのは間違いないが、横臥する裸婦2体からこけし(立像)への跳躍が気になる。水平から垂直方向への運動の転換と幾何学的な形態への抽象化(=実体を離れる)に、昇天(=オーガズム)を見るのは飛躍だろうか。
ドミニク・アングルの絵画をもとにした銀色の女性像《泉(La Source)》(ピンクと銀色の箱を組み合わせた台座《噴水(The Fountain)》に設置)と、パブロ・ピカソの絵画をモティーフとし、緑と青の身体で表わされた《アヴィニヨンの娘たち》(白く高い《タワー》と題された台座に設置)では、女性の腕が太く突き出るように誇張されているのが印象に残る。性差を打ち破る力がそこには見える。
黄色い屏風のような台座《隠れ家》の上には《Little Colliu》が腰掛けている。作家の自画像であろう《Little Colliu》の、四本の線で目を表わす顔の特徴は、他の全ての作品に共通しており、全ての作品は自画像の延長とも考えられる。屏風を背景としてではなく台座として用いる点には、部屋や什器などの使い方を固定しない近時の建築の動向に通じる。それらは、性自認や性的役割分担における固定観念を揺るがせ、打ち破っていく時代相の反映でもある。