可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』

映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』を鑑賞しての備忘録
2019年の日本映画。
監督・脚本は、箱田優子。

新宿。午前3時。CMディレクターの砂田夕佳(夏帆)は、夜をともにしたカメラマンの冨樫晃(ユースケ・サンタマリア)を起こし、ホテルをチェック・アウトする。駐車場で一人ホテルへ向かう女性とすれ違った砂田は、うどんでも食べてから帰るかと尋ねる冨樫に、フーゾクは1回いくらかと問う。帰宅した砂田は、朝食に食パンをかじる夫・篤(渡辺大知)から、駅前で猫を見たという報告を受ける。CMの撮影で廃校を訪れた砂田が、階段で一人代理店にクレームの電話を入れていると、ADから声がかかる。俳優(嶋田久作)が教室で歌なんて歌えないとごねているという。砂田は歌というより語るようなものなのでと説明して「語っ」て見せ、何とか事なきを得る。撮影終了後の酒の席では、スタッフが多忙な砂田を心配する。30歳の砂田は、40歳の女性CMディレクターなんていない、仕事するなら今しかないと返す。子供の話題が出ると、出産してから復帰した先輩の作品がつまらなくなっていたと言い放つ。離れた場所に座っていたスタッフが冨樫に二人目の子ができたことを知って声を上げて驚いている。砂田は悪酔いしてトイレに立つ。泥酔状態でカラオケ店に向かい「いぬのおまわりさん」を絶唱。路上のベンチから転げ落ちて、一人でいる自分に気が付く。手にしていたペットボトルの水を一口飲むと、砂田は花壇の花に残りの水をやるのだった。砂田は、映画を撮るという清浦あさ美(シム・ウンギョン)にビデオカメラを貸すため喫茶店で落ち合う。窓際のカップルをからかいながら、初挑戦のパフェをうまくないが負けるわけにはいかないと完食するテンションの高い清浦。特にすることのない二人は、清浦が中古で手に入れた左ハンドルの青い車に乗り込む。そこへ砂田の母・俊子(南果歩)からの電話が入る。すると清浦は、砂田の地元である茨城に向かうと言い出す。湘南出身の清浦にはサーファーがいる海と鎌倉があるだろうが、自分の地元には何も無いと砂田は反対する。砂田の制止に耳を貸さない清浦は、砂田の実家に向けて車を走らせる(合流は苦手)。

 

本作は、「オバケなんてないさ」の歌を歌いながら早朝の田舎道を駆け回る幼い日の砂田のシーンからスタート。よく歌詞を聴きながら、少女・砂田の姿を目に焼き付けておこう。

冨樫の登場は、ホテルで冨樫が砂谷に対して背を向けて寝ているシーンである。夫の登場は、自宅でレンジに向かう夫の背後に砂田がいる場面である(その後も夫はテレビに向かったまま砂田と会話する)。それに対して清浦は喫茶店で向かい合う形で現れる(但し、二人が相対するシーンの前に、二人がそれぞれ別の空間にいるかのようなカットが挿入されている)。

砂田は打消しの言葉を羅列する。冒頭から「おばけなんてないさ」という否定文(negative sentense)なのである。だが、否定を否定するとき(二重否定)、それは強い肯定を意味するのではなかったか。

砂田と祖母との関係。変わってしまいながらも、変わらないもの。大切なものはやんわりと包まれて、砂田の胸にしまわれる。それを見せるためにこの映画はあった。

マンガのような効果音を大胆に入れる一方、効果音・音楽をカットしてしまうシーンがあったり、音(音楽)の形が見えるような使い方に面白みがあった。

カップルしか入浴できない温泉のマンガ。同じ目のマンガ。