可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 小川佳奈子個展

展覧会『小川佳奈子個展』を鑑賞しての備忘録
GALERIE SOL〔sol musette〕にて、2021年12月20日~25日。

長辺515mm以下の比較的小さなサイズの絵画22点で構成される小川佳奈子の個展。

楕円の画面の《どさくさに紛れる》(180mm×120mm)の、柘榴の木の枝と4つの実とともに描かれた女性の横顔や、縦長の木切れを支持体とする《浮かぶ火の玉》(515mm×122mm)の、鬼火が周囲に浮かぶ中、踵を上げ腕を高く持ち上げて振り返る裸体の女性は、江戸川乱歩の作品の挿絵にでもありそうな雰囲気を持つ(なお、両手の親指を虎ロープで結び、革の全頭マスクを被った女性が湯(?)に浸かる《カワノマスク》(180mm×180mm)などを見ると、描き方ではなく世界観として、乱歩よりもレオノール・フィニ(Leonor Fini)に通じるものが看取される)。《五右衛門》(180mm×140mm)には、笑顔の女性がドラム缶の湯船(五右衛門風呂、ドラム缶風呂)に浸かる姿が描かれる。これらに象徴される通り、展示作品には、モティーフや色遣い、描き方に昭和の雰囲気が濃厚である。のみならず、絵画の木枠などにもエイジング加工によってアンティークが装われている。女性像の他には、猫や虎をはじめとした動物を描いた作品が目立つ。

本展のメイン・ヴィジュアルである《すきずき》(220mm×400mm)には、右から左へと段々と幅が広くなるように3つに仕切られている、背板の無い棚が描かれている。右側には釉薬のたっぷりかけられた水筒型の一輪挿しが鎮座している。中央はさらに上下に棚板で仕切られて、上には猫が、下には白い磁器に桃が2つ盛られている。左側にはマッチ箱を4つ重ねた上に薬缶が載せられ、その右隣に灯った蝋燭が煙を燻らせるとともに溶けた蝋を垂らしている。一見したところ違和を感じないが、よくよく見ると、4段重ねられたマッチ箱と猫とでサイズに大差が無い。一般的な感覚からするとサイズの異なるものが異なる縮尺で同居しているのだ。また、棚板の向きや角度もそれぞれ異なっている。一種のデペイズマン(Dépaysement)である。もっとも、鑑賞者に衝撃を与える狙いは窺えず、好み(=すきずき)の料理を副菜として詰め込んだ幕の内弁当のような作品と見受けられる。あらゆるモティーフは描かれたものである点で等価であり、共存可能なのだ。ハート型のケースにブローチやネックレスや腕輪を描いた《お子様セット》(180mm×180mm)(ネックレスを持ち上げる右手が描き込まれているのがデペイズマン的である)、あるいは、青いガラスの金魚鉢の中の、底で肩で体を支えて左脚を伸ばす水着の女性を描いた《シンクロ》(Φ400mm)などにも、対象を捉えて閉じ込めて鑑賞する感覚が窺われる。他方、《すきずき》は、マルセル・デュシャンの《彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも》のように、モティーフ相互の結び付きを解釈する欲求を刺激される作品でもある。右側の「一輪挿し」に花が活けられていないことは不妊を表わすのではあるまいか。中央の「桃」によって回春するだろう。それならば「猫」は懐胎のメタファーである。「マッチ箱」が象徴する火の上の「薬缶」は産湯を湧かすものであるが、全ては「蝋燭」の火に映った幻影であった、というように。もっとも、碁石が降る中佇む象を描いた《未生》(180mm×140mm)を見て、象の乗る碁盤の脚(山梔子)に気付くと、この辺りで口を閉ざすべきであると思い至るのである。