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芸術鑑賞の備忘録

映画『セイント・フランシス』

映画『セイント・フランシス』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のアメリカ映画。
101分。
監督・編集は、アレックス・トンプソン(Alex Thompson)。
脚本は、ケリー・オサリバン(Kelly O'Sullivan)。
撮影は、ネイト・ハートセラーズ(Nate Hurtsellers)。
美術は、マギー・オブライエン(Maggie O'Brien)。
音楽は、クイン・ツァン(Quinn Tsan)と アレクサンダー・バビット(Alexander Babbitt)。
原題は、"Saint Frances"。

 

細やかなホーム・パーティー。グラスを手に参加者があちこちで話に花を咲かせている。コーリー(Bradley Grant Smith)はブリジット(Kelly O'Sullivan)を相手に語っている。目覚めたら真夜中で、汗びっしょり。心臓はドキドキする。リンジーの方に手を伸ばすんだけど、ベッドにいなくてさ。そもそも自分たちのベッドでもない。ボックススプリングにマットレスが載ってるタイプのやつ。廊下に出て、息子のクーパーの部屋に行ったんだけど、いなくてさ。本当に参っちゃって。今度は赤ん坊のスカイラーの部屋に駆け込むと、ベビー・ベッドにいない。そうか、自分の家じゃないんだって気付く。ひどい場所だよ、住宅地の狭いアパートでさ。振り返ると、突然窓がある。そこから飛び降りたんだ。何で? 自殺するためさ。自分の人生に意味がないって思って。家庭を持たなかったり、何かを発明もしなかったし、株式も持ってないし、人生で決断ってことをしなかったんだ。34歳で無職、金もなく、孤立していて、自己嫌悪と恥辱に塗れてる。自分が大嫌いで、身投げするんだ。とにかく悪夢だね。悪夢の中にいたんだ。ひどい話だろう。想像できるかい。君はどう。仕事は? ウェイトレスよ、レストランで。君は20代だから、これからだよ。実際は34よ。…素敵だよ。ちょっとすまない、知り合いがいたから。コーリーはそそくさと立ち去る。近くで2人の様子を見ていた男(Max Lipchitz)が酒瓶を手にブリジットに近寄る。ブリジットよ。ジェイス。どうしてエイミーを知ってるの? 彼女はうちの店の常連だから。経営者なの? いや、ウェイターだよ。
ブリジットはジェイスを自宅に招きベッドをともにする。…イきそう。ああ、僕も。引っこ抜いて…。
朝、先にベッドを出たブリジットが洗面台に向かう。顔に血が付着している。ねえ、生理じゃないの。血が付いてる。結構な量だよ。ジェイスがシーツの赤黒い染みを指摘する。枕を汚さないようにしないと…。私がやるから。あなたの顔にも血がついてる。ブリジットがジェイスの顔に付いた血を指摘する。嘗めてもらってるときはまだだったと思う。そうだね、分からなかった。変な味はしなかったから。好きな人もいるのよね。「血に目が無い猟犬」って言われてる。僕は「血に夢中(ブラッド・ハウンド)」じゃないよ。生理でも全く気にしないってだけ。確かに、普通、タオルを敷くぐらいだけど。ベッドの後始末をして、ジェイスはシャワーを浴びていると、歯を磨いていたブリジットが、突然しまったと叫ぶ。行かなきゃ。何で? 面接があるの。何の? 子守。子ども好きなんだね。好きじゃない。そうなの。家を飛び出すブルジットにジェイスはまた会えるかと声をかける。
ブリジットが車を運転していると、ジェイスからブラッド・ハウンドのイメージを貼り付けたメッセージが届く。住宅街で車を降りたブリジットは歩いて家を探す。歩道にフランシスと落書きがしてある。間もなくブリジットが面接を受ける家を見付ける。身重のマヤ(Charin Alvarez)が出迎える。ブリジットは、リヴングのテーブルで、マヤとパートナーのアニー(Lily Mojekwu)の面接を受ける。仕事は6月から。フランシス(Ramona Edith Williams)が休みに入るから。8月いっぱいまでお願いするわ。私はあまり家にいられないの。実際に出産しない限り会社が産休をくれないから。私は少しは家で仕事をするつもりだけど、年齢を考えたら余分に休んだ方がいいって医者に言われたわ。「老齢妊娠」なの。35を超えたら医学上そう呼ばれるの。間違いなく老齢の白人男性の造語よね。以前に子守の経験は? フルタイムではないです。ダナ(Rebecca Buller)から兄弟がいるって聞いてるけど。ええ、弟がいます。6歳年下です。フランシスとウォレスと同じ年齢差ね。仲良しになるには歳が離れすぎかもしれないって心配してたの。弟さんとは仲良し? あまり。弟は仕事も家も責任感も持っています。共通点があまりないんです。
2人に案内されてブリジットはフランシスの部屋のある2階に上がる。廊下の壁に掛けられている十字架や聖母像をブリジットが見ていると、カトリックかと尋ねられる。もう違いますけど、幼稚園から中学2年生までカトリックの学校に通ってました。マヤはフランシスをカトリックの学校に入れたかったんですけど、私が断固拒否しました。その方がいいですよ、教会嫌いにならなくて済みます。私も嫌いってわけじゃないんですけど。フランシスの部屋に入る。フランシスはどこにいるのかしら? 部屋には玩具は出ているが、フランシスの姿はない。ブリジットはベッドなどを確認した後、クローゼットを開けてフランシスを見付ける。こんにちわ。私の勝ち? ママは手伝った? いいえ。少し時間を上げるから2人で過ごして。あまり長居はできないんです。ブリジットの訴えを聞いているのかいないのか、マヤとアニーは2人を置いて出て行く。ダナがね、あなたのいいところを沢山教えてくれたの。ダナは来るの? いいえ。ダナは引っ越したの、赤ちゃんが生まれたときに。ダナは私の親友でね、あなたと私がうまくやれるって。ブリジットは電話の玩具を使って話すフリをする。フランシスを電話ごっこに付き合わせようとするが、フランシスは全く相手にしない。フランシスは部屋のドアを開けると、マヤとアニーに終わったよと報告する。

 

大学を1年で辞め、アルバイトで食いつないでいるブリジット(Kelly O'Sullivan)は、34歳。親友のダナ(Rebecca Buller)は「老齢出産」になる前に結婚して子どもを生んだ。ダナの紹介で、ブリジットは、マヤ(Charin Alvarez)と彼女のパートナーのアニー(Lily Mojekwu)の家で、6歳のフランシス(Ramona Edith Williams)の子守を夏期休暇中だけ担当することになる。マヤはウォレスを出産したばかりで育児に追われ、アニーは会社で育児休暇を認めてもらえず、2人はフランシスに手が回らなくなってしまったのだ。子守の初日、公園へ散歩に連れて行くようマヤから頼まれたブリジットは、フランシスをベビーカーに乗せようとするが、歩いて行くからいいと拒まれる。だがフランシスはすぐさま歩けないとおんぶを要求する。公園では、与えないよう指示されている甘い物を欲しがるフランシスとカバンの取り合いになり、フランシスがこの人ママじゃないと騒ぐために警察沙汰になる。ブリジットはパーティーで知り合った26歳のジェイス(Max Lipchitz)と関係を持っていたが、思いがけず妊娠してしまう。彼女の頭に出産の選択肢は無かった。

(以下では、結末を含め、冒頭以外の内容についても触れる。)

冒頭、ブリジットを一夜の相手にしようとしたコーリーの悪夢の話に出てくる窓とはブリジットのことだ。安いアパートの窓を突き破りたいと、ブリジットを手軽な性欲処理の相手と見下しているのだ。
マヤは「高齢」出産して育児に忙殺される。フランシスは急に自分が放っておかれるようになって寂しい。マヤと少しでも一緒にいたいフランシスは、まだ慣れない子守のブリジットに嫌がらせをしてしまう。
育児に疲れ産後鬱になっているマヤとアニーの中が険悪となる。フランシスはマヤとアニーが別れてしまうのではないかと不安でいっぱいになる。そんなフランシスに、ブリジットは、別れないと信じようと言う。神様ではなく、人のことだって信じていいよね、と。
定職が無く、いつしか「老齢出産」の年齢となったブリジットは、年下のセックスフレンドの子どもを妊娠してしまうが、中絶以外の選択肢が浮かばない。身体的にも精神手金にも苦しい思いをして薬物による中絶をする。そんな彼女の前に年上の詩人でもあるギター講師(Jim True-Frost)が現れ、縋るように近づくが、遊び相手として軽く扱われた上、勃たない理由を彼女のせいにされてしまう。フランシスの家に偶然遊びに来ていた大学時代の同級生で、今は作家として成功しているシェリル(Rebekah Ward)からは見下した対応をとられる。
ウォレスの洗礼を受けるために教会に行った際、ブリジットは、告悔室に潜り込んだフランシスを追いかける。神父のフリをするフランシスに対して、ブリジットは「告白」をする。最初に出会った日、クローゼットに隠れ、電話ごっごを無視した、あのフランシスが、ブリジットとの告解ごっこに付き合ってくれるのだ。そして、フランシスはブリジットの勇敢さを讃える。聖フランシスによって、ブリジットは浄化される。