可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『地下室のヘンな穴』

映画『地下室のヘンな穴』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のフランス・ベルギー合作映画。
74分。
監督・脚本・撮影・編集は、カンタン・デュピュー(Quentin Dupieux)。
美術は、ジョアン・ル・ボル(Joan Le Boru)
衣装は、イザベル・パヌティエ(Isabelle Pannetier)。
音楽は、ジョン・サント(Jon Santo)。
原題は、"Incroyable mais vrai"。

 

アラン(Alain Chabat)とマリー(Léa Drucker)のデュヴァル夫妻が医師(Grégoire Bonnet)の元を訪ねる。どう切り出したらいいものか分からないんだが、私達には不安の種がありまして、それで相談に伺ったのですが…。しかし話すのは簡単ではありません。恐いのよ、話したら私たちが狂ってるって思われるんじゃ無いかって。そうなんだ。とにかく話してみるべきだね。よし、話そう。
ジェラール(Benoît Magimel)の経営する保険会社。アランが自室のPCで古いタイプのシューティングゲームに興じている。電話が鳴る。マリーからだった。約束をすっかり忘れていたアランは慌てて会社を出て車に乗り込む。
閑静な住宅街の生け垣に囲まれた狭い通りでマリーと不動産業者のフランク・シェーズ(Stéphane Pezerat)がアランの到着を待っていた。早速フランクの案内で住宅の内覧を行うことに。木の門を抜け、芝生の前庭を通って2階建ての家へ。赤茶色の壁のリヴィング・ルームは落ち着いた雰囲気。隣のキッチンを見てから、2階へ。窓から庭を眺めると、隅に赤い車が放置されているのが見えた。少々広すぎるかもしれないと2人が考えていた矢先、フランクがこの物件の目玉を紹介すると階段を下っていく。アランは地下室に興味がないと言うが、フランクは地下室の床にある木の蓋を外し、2人にマンホールのような穴を見せる。このダクトは人生を一変させる、衝撃的な代物だという。フランクが穴についている梯子を下りていく。アランとマリーが後から付いていく。洗濯機同様、蓋を閉めないと作動しないと言われ、蓋を閉める。もう少しです。深呼吸して心の準備を。
フランクとともにアランとマリーが梯子を下りると、そこは家の2階だった。日が落ちていたのに辺りは明るい。庭のテーブルに座って、アランとマリーはフランクから穴についての説明を受ける。ダクトを降りると12時間が経過するのだという。フランクは時間が相対的なものであることなどを考えれば12時間経過するのは理解できなくはないが、地下の穴と2階とが繋がっていることについては納得しかねた。この穴にはもう1つ重要な効果があるという。だがフランクは勿体ぶってなかなか説明しない。
引き合いが多いのでお早めにどうぞ。フランクが自転車で立ち去る。今晩話し合おうとアランとマリーはそれぞれ車で内覧した家を後にする。
マリーは車の中で煙草を吸いながら物思いに沈む。
引っ越し業者がやって来て、アランとマリーの新居に荷物を運び入れる。夜、2人は家を持つことができたことを祝って乾杯する。マリーは早速地下室の穴を潜り抜けようとアランにせがむが、アランは引っ越しで疲れたと寝る。マリーは1人地下室へ降りる。

 

アラン(Alain Chabat)とマリー(Léa Drucker)のデュヴァル夫妻を持たないまま50代を迎え、自分たちの家を持つことに決めた。不動産業者のフランク・シェーズ(Stéphane Pezerat)に紹介された物件を内覧した2人は、広すぎると購入を躊躇っていた。そこでフランクはこの物件の目玉だと言って2人を地下室の穴に案内する。その穴を降りると、何故か2階へと通じていて、12時間が経過してしまう。のみならず、3日間若返る効果を伴っていた。アランの無関心をよそに、マリーは穴を抜けて若返りを図ることに執着する。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

穴の若返りの効果は表面的(外見的)なものであることが明らかになる。だがマリーは若返りに執着し、度々穴に入る。そのため、マリーとアランとの生活は擦れ違いとなり、会えない時間が増えていく。のみならず、若返ったマリーはアランとともにいる時間をうまく過ごすことができない。
マリーは必死に穴を降り、そのたびに鏡を眺めるが、1回につき3日間の若返りは簡単に認識できない。だが腐った林檎を手に穴に入ったマリーは、綺麗な林檎を手に入れたことで効果を実感して狂喜する。ところがアランがその林檎を囓ると、中からは無数の蟻が出てくる。サルバドール・ダリの絵画を連想させる、腐敗のイメージである。
アランの勤務する保険会社を経営するジェラール(Benoît Magimel)は女と車に執着し、次々と乗り換えていく。自在に電子制御可能な人工陰茎を手術で取り付けたことで自信を付けたジェラールの女漁りは加速する。
人工陰茎の手術は日本で受けられることになっている。枕絵が性への連想を誘うにしろ、今日日技術的な先進性で日本を思い浮かべることはないはずだと思っていたところ、納得の展開が待っていた。但し、日本語が通じない患者に対して延々と日本語で語るような図々しさは日本人は持ち合わせていないだろう。
放置された赤い自動車は、家の前の所有者の存在を想起させる。果たしてどんな末路を辿ったのか。
思い通りにならない猫を可愛がるアランと、否定するマリー。猫は時間のメタファーになっている。そして、コントロールの欲望という点で、マリーとジェラールとは共通する。
冒頭に登場する古いタイプのシューティング・ゲームは、レコードとともに繰り返しを表現するためのものだろうか。あるいは、職場のPCであることからしても、アランが準備しなければならない保険契約書の細目のメタファーかもしれない。アラン自身、契約書は細部にまで目を通すことなどないと否定される内容である。
音楽に古いコンピューター・ゲームを思わせる電子音楽が用いられている。