可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『世界のブックデザイン 2021-22』

展覧会『世界のブックデザイン 2021-22』を鑑賞しての備忘録
印刷博物館 P&Pギャラリーにて、2022年12月10日~2023年4月9日。

ドイツ・ライプチヒで開催された「世界で最も美しい本2022コンクール(Best Book Design from all over the World 2022)」、日本の「第55回造本装幀コンクール」を始め、ドイツ、オランダ、オーストリア、フランス、カナダ、中国の各国で開催されたブックデザイン・コンクールの入賞図書を展観。書籍は実際に手にとって閲覧可能という点でも優れた企画。


「世界で最も美しい本2022コンクール(Best Book Design from all over the World 2022)」より

"Rodin / Arp"(ISBN: 978-3-7757-4874-2)は、バーゼル近郊にあるバイエラー財団の美術館とボン近郊にあるアルプ美術館で開催された、オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)とハンス・アルプ(Hans Arp)の二人展のカタログ。2人の彫刻家の作品を大きな写真図版で紹介する。同テーマの作品は見開きに対にして並べて比較対照させる。モノクロームを貴重としつつ、テキストに赤みを帯びたオレンジを用いているのが印象的。

"Portraits, John Berger à vol d'oiseau"(ISBN: 978-2-9540134-8-0)は、小説家で美術批評家のジョン・バージャー(John Berger)が1952年から2016年にかけて著した美術に関する文章の抜粋を作家別に再構成したもの。灰色のざらざらとした表表紙にはタイトル1点で交差する3本の線を添えた走り書きのメモが遇われているのが、768頁という大部な本を視覚的に軽やかに見せるのに貢献している。作家の生年、著作の年、作家のアルファベット順の索引と図版とは前半にまとめて配し、後半は蜿々とテキストが並ぶ。作家ごとの表題の頁は、作家名を中央上に、その生没年を左上に、右端には次項以降で紹介されるバージャーの文章が書かれた年が古い方から新しい方へ目盛りのように配されている。

"水:王牧羽作品集"(ISBN: 9787558076251)は、王牧羽の画集。南宋の画家・馬遠の山水画に霊感を得た、水を主題とした作品のみで構成されている。蛇腹の頁は読み手にゆっくりと読み進めることを要求するとの審査員の評。確かに扱いにくいため、慎重に頁を繰らざるを得ない。一続きの紙は縷縷とした水の連なりを感じさせる。そのために会場では、蛇腹を展開した形でも展示されている。

ロマーナ・ロマニシン(Романа Романишин)とアンドリー・レーシウ(Андрій Лесів)の"Куди і звідки"(ISBN: 978-617-679-821-7)は、椅子に坐っていた人物が立ち上がり歩き出すことで始まる、「どこからどこへ」という移動をテーマにしたウクライナの絵本。人が歩いたり船に乗ったりと、移動して境界を越えて行く姿を描き出している。会場ではフランス語版とイタリア語版とが展示されており、青い表紙に鮮やかなオレンジと黄色が映え、ウクライナの国旗を連想させる。


「第55回造本装幀コンクール 受賞作品」より

小川洋子『遠慮深いうたた寝』(ISBN: 978-4-309-03003-6)は、小川洋子のエッセイ集。装幀家は、名久井直子。艶やかな釉薬をかけた染付そのものに見えるカヴァーは、九谷焼の陶板画(上出惠悟)を印刷した紙。戦前の本を思わせるノスタルジックな印象の手書きの文字と動物の絵。タイトルと作家名を丸く囲むことで滲み出る愛らしさは、カヴァー背面の星座と呼応する。

澤田知子『狐の嫁いり 特装版』(ISBN: 978-4-86152-862-0)は、写真家・澤田知子の同名展覧会の図録を兼ねた書籍の特装版。装幀は、浅野豪デザイン。実質的なデビュー作から最新作までの13シリーズ1400点弱を収め、1552頁もある厚手の本。白い箱の中に、分厚い写真の束のような本が収められている。白い表紙に漆黒の文字、黒文字、見返しの赤が白無垢を身につけた花嫁を連想させる。