展覧会『近藤恵介・冨井大裕「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」』を鑑賞しての備忘録
LOKO GALLERYにて、2023年3月9日~4月9日。※当初会期(3月26日まで)を延長。
2019年の颱風に伴う収蔵庫の浸水被害により損壊した川崎市市民ミュージアム所蔵の、近藤恵介・冨井大裕の共作《あっけない絵画、明快な彫刻》と、それを元に両者によって制作された作品とを展観する企画。
壁面に掛けられた《私とその状況(あっけない絵画、明快な彫刻)》(2010/2019/2022)は、浸水被害によって、貼られていた紙が落剥し、絵具が流れ、黴が生えている。画面下部に描かれた展示台や瓶といったモティーフがはっきりと残ることで、偶然ではあるが、得体の知れない禍々し存在が美術館を襲った様子を伝える作品と化している。
《私とその状況(あっけない絵画、明快な彫刻)》に応答する作品である《私たちとその状況(空地)》(2022)には、余白を大きく残しつつ、色を塗った幾何学的な形の紙やあるいは切り絵のような紙が偶然そこに置かれたかのように貼り付けられ、あるいは針金がモティーフとモティーフとを繋ぎ、画面から飛び出している。吹き抜けの展示空間の壁の高い位置に飾られることで、浮いたり跳ねたりする紙や針金の軽やかさを強調するとともに、同じ壁の低い位置に展示されている《私とその状況(あっけない絵画、明快な彫刻)》から離れた位置に置かれることで、浸水被害を避けて高所へ避難する意図が窺える。
経年劣化と事故などによる損傷とでは、その変化の質に大きな違いはあるとは言え、後者は前者に比して変化が増幅されたものと見ることは不可能ではない。そして、傷みを手当て(ケア)することも手業(arte)であり当然に芸術行為と看做すことができる。例えば、断簡を軸装など表装して独立した作品に仕立てるなど、ケアとしての芸術行為はこれまでも行われてきたのである。
作家の作品が、手を変え品を変えつつ、およそ同じテーマを扱うものであるなら、個々の作品は中間報告であり、後行作品は先行作品の語り直しと言える。
損傷をきっかけにした修復は、通常の作品制作(=語り直し)とは異なる気付きを生み、作家が明確に意識していなかった狙いが浮き彫りになることもあり得るだろう。
作家たちの作品は、モティーフとモティーフとを繋ぎ、平面=絵画と空間=彫刻とを繋ぎ、作品と展示空間とを繋ぐ。浸水事故による損壊は、変化≒時間の圧縮でもあり、直線的な思考では連続しない時空を繋ぎ合わせる結果をもたらした。あるいは損傷した作品の後続作品を製作することで、1個の作品は決して完結せずに後行作品に繋がる未完結性がより鮮明になった。また、共作による他者の意図の導入に加え、自然(偶然)を作品に引き込むことにもなっている。