可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『CLOSE クロース』

映画『CLOSE クロース』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のベルギー・フランス・オランダ合作映画。
104分。
監督は、ルーカス・ドン(Lukas Dhont)。
脚本は、ルーカス・ドン(Lukas Dhont)とアンジェロ・タイセンス(Angelo Tijssens)。
撮影は、フランク・バン・デン・エーデン(Frank van den Eeden)。
編集は、アラン・デソバージュ(Alain Dessauvage)。
美術は、イブ・マルタン(Eve Martin)。
衣装は、マニュ・フェルシューレン(Manu Verschueren)。
音楽は、バランタン・アジャジ(Valentin Hadjadj)。
原題は、"Close"

 

森の中の地下貯蔵庫。レオ(Eden Dambrine)とレミ(Gustav De Waele)が戦争ごっこをしている。どうする? 静かに。ごめん。音を立てないで。分かった。待って、見て来る。駄目だよ、居てよ。出て行ったレオが慌てて駆け戻る。隠れろ、早く。どうしたの? 貯蔵庫に降りる階段の下で坐っていたレミが慌ててレオと同じように表から見えない壁際に移動する。どうしたの? 静かに! 足音と鎧の音が聞こえないのか? どれくらいいるの? 少なくとも80人。確認するよ。そいつらの目的は? 知らない。前方にはいない。壁の隙間から覗いていたレミが驚いた声をあげる。どうした? 何か聞こえる。静かに! 上と後ろにいる。囲んでるんだ。レミが手にしていた棒で天井をつつく。止めろよ、聞かれるだろ。頭がおかしいのか? いいか、3つ数えたら逃げるぞ。了解です、大尉殿。3、2、1、行け! 
レオとレミとが森を駆け抜けると、一面に花が咲き乱れる圃場に出る。レオの一家がそこで花卉園芸を営んでいるのだ。後ろにいるぞ、走れ! レオがレミに声をかける。2人は花の中を走り続ける。どこにいたんだ? 父親イヴ(Marc Weiss)がレオに声をかける。レミの家に泊まるよ。戻って来るつもりはあるの? 母親のナタリー(Léa Drucker)が笑う。多分ね。兄のシャーリー(Igor Van Dessel)が手伝いに来てくれて助かったとレオの肩に腕を廻すと、レオは違うよと言って腕を振り払い走り去る。
2人はレミの家に向かう。犬が喜んで飛び出してくる。レオが声を掛けながら犬を撫でる。
庭の草叢に仰向けに寝たレミの身体を枕に、レオとレミの母ナタリー(Émilie Dequenne)が横になる。窓を開けてちょうだい。2人がナタリーに息を吹きかける。気に入ったわ。じゃあ、ブドウをお願いできるかしら。僕らは召使いじゃ無いよ。少しは夢を見させてよ。夢を見ることはいいことだね。献身的な息子がいればいいのにって夢見てるの。私の息子より献身的ね。日によるでしょ。分かってるわよね、私はいつも献身的だって? その通り。あなたもそう思う? 思います。私、息子に良くしすぎかしら。
赤い壁紙のレミの部屋。レミが真剣にオーボエを吹いている。その姿をレオがじっと眺める。マネージャーになろうかな。一緒に世界を廻るんだ、月までだってね。大金持ちになるよ。まだまだ先の話だよ。そんなことないよ。世界中の人に見せなよ、ユーチューブにアップしてさ。たくさん「いいね!」をもらえるよ。分かったよ。最初に行きたい国は? まずはこの曲をきちんと仕上げないと、それからだよ。もし行かなきゃならないなら何処がいい? 最初に行く国。メキシコかな。
ベッドに坐っているレミをレオがスケッチする。笑うなよ、集中できないだろ。レオが描き終える。実際は格好いいんだけどね。見せるよ。見せる前から吹き出すレオ。ひどいな。ごめんね。間違いなく傑作じゃ無いね。
ベッドに寝ている2人。眠ってないの? 眠ってるよ。レオはレミの返事に微笑む。何を考えてるの? さあね。頭の中で渦巻いているのが止まらない。大した問題じゃないさ。想像して。自分が小さなアヒルの仔だって。卵の殻から出たばかりで、初めて目を開けたところさ。アヒルはみんな黄色で、お前もそうだけど、他のやつより綺麗なんだ。特別なんだよ。ある日群れを離れることにしたお前は、1匹のトカゲに出会す。見たこと無いから何なのか気になる。トカゲ、怪しげ。韻も踏めちゃう。でも気に入るんだ。お前と一緒で特別だからさ。で、一緒に出かける。最後にはトランポリンに上がる。トランポリンの上で跳ね始める。星みたいに高く跳び上がるんだ。
2人が並んで眠るベッドに朝陽が射し込む。
レオとレミが自転車を飛ばして、抜きつ抜かれつ学校へ向かう。

 

ベルギー王国ワロン地方の田舎町。レオ(Eden Dambrine)は、花卉園芸を営む父親イヴ(Marc Weiss)、母親ナタリー(Léa Drucker)、兄シャーリー(Igor Van Dessel)とともに暮らしている。近くに住む幼馴染みのレミ(Gustav De Waele)とは兄弟同然で、レミの母ソフィー(Émilie Dequenne)や父ペーター(Kevin Janssens)とも親しく、レミの部屋に入り浸っている。13歳になった2人は中等教育学校に進学した。身体を寄せ合うレオとレミに女子生徒から2人は付き合っているのかと尋ねられたのをきっかけに、レオはレミとの関係を必要以上に意識するようになってしまい、レミとの接触を避けるようになる。レミはレオの態度の急変に戸惑わざるを得ない。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

兄弟同然の幼馴染みの男子のじゃれ合いは、思春期を迎えて同性愛へ転じるのか。レオとレミが性的に相手を意識しているとは断定できないが、1つのベッドを共有して眠る2人の姿にはその可能性が濃厚である。
中学校に進学し、レオがレミに凭れ掛かる様子などを目にした男子生徒はレオが女っぽい男だと揶揄い、女子生徒はレオとレミとが付き合っているのかと関心を示す。男子同士の身体的接触が奇異の目で見られることを強く意識したレオは、体面を保とうとレミとの接触を過剰に避け始める。レミはレオから突然冷たく遇われることに戸惑い、傷つく。
冒頭の森の中の貯蔵庫(?)での2人だけの戦争ごっこ。2人だけの世界が楽園であることが、花々の咲き乱れる圃場を駆ける2人の映像によって強調される。そして、2人の夢が語られるレミの部屋は、赤い壁紙で覆われ、オレンジ色の暖かい光に包まれている。
同じ道を駆け抜け、同じ向きで眠った2人。レオがレミとの一緒の登校を避け、帰り道が一緒になってもレミの家には立ち寄らなくなる。2人の道が分かれていく。圃場では、咲き誇っていた花が(出荷のためであるが)摘まれていく。2人の楽園はもはや存在しなくなってしまった。
レミを象徴する赤。レオを象徴する白。レオがアイスホッケーを始め、黒いユニフォームに身を固めるのは、無垢な心を世間の好奇の目から身を守るためだろう。
カメラは顔を「クローズ」アップで捉える。レオ、そしてレミの心を映し出す。
レオとレミを始め生徒はフランス語で会話をしているが、授業ではオランダ語フラマン語)が話される。