可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『スウィング・キッズ』

映画『スウィング・キッズ』を鑑賞しての備忘録
2018年の韓国映画
監督・脚本は、カン・ヒョンチョル(강형철)。
原題は、"스윙키즈"。

朝鮮戦争下、コジェ(巨済)島に設置された国連軍捕虜収容所。暴動発生後、新たに所長に着任したロバーツ准将(Ross Kettle)は、収容所の規律を維持しつつ、北朝鮮の捕虜待遇に関するプロパガンダに対抗するためのイメージ戦略を模索していた。彼はまず寛容な姿勢を収容者に印象づけるべく、朝鮮人民軍の英雄ロ・ギジン(김동건)の弟で、暴動後に収監されていた収容所内のリーダー格ロ・ギス(도경수)の釈放を命じた。また、国際赤十字の視察団にアトラクションを提供しようと、黒人の元ダンサーの一等軍曹ジャクソン(Jared Grimes)に目を付け、ダンス・チームの結成を命じる。ジャクソンは東洋人にダンスは無理だと拒むが、妻子のいる沖縄への転属をちらつかせて承服させる。ロ・ギスはマンチョル(이규성)に手引きされて国連軍の貯蔵庫に侵入し、抗米との名目で酒や食料を手当たり次第に口する。泥酔したロ・ギスが闖入したのはダンスホールとして使われていた体育館。そこには米兵の相手をしようとやって来たリンダ(박진주)や彼女に連れられて来たヤン・パンネ(박혜수)の姿もあった。 米兵のジェイミー(A.J. Simmons)は、以前から悶着のあったロ・ギスの姿を見つけると、仲間とともに殴りかかりこれまでの鬱憤を晴らそうとする。ロ・ギスは逃れようと演奏に合わせて超人的な跳躍能力を発揮する。それを居合わせたジャクソンも目撃していた。後日ジャクソンはリンダを通訳にダンスチームのオーディションを体育館で行うがまともな候補者が集まらない。象帽を被ってめまぐるしく飛び回るカン・ビョンサム(오정세)、太った体型から繰り出される奔放な舞を見せる人民義勇軍のシャオパン(김민호)、中国語もできると通訳をかってでたヤン・パンネが辛うじて残ったが、いずれもジャクソンの指導についてこられそうにはなかった。その光景を脇で目にしていたのが、体育館の修繕に回されたロ・ギスであった。

 

朝鮮半島の人々が二つの立場に分かれて争い、今なお決着の付いていない朝鮮戦争。その分断がイデオロギーによって生み出されたものであることが訴えられる(イデオロギーの力についてはユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』でも力説されているところ)。そして、イデオロギーを乗り越え、立ち向かうよすがとしての文化可能性を、武闘派のロ・ギス(도경수)がタップ・ダンスに魅了されていく様を描くことで示している。
コメディの要素をふんだんに織り込みつつ、捕虜収容所という裏面から戦争の過酷な現実を描ききる。苦みの残るクライマックスもこの作品にはふさわしい。
調理や洗濯といった動作の生む音がタップ・ダンスのリズムを作ったり、キャラクターの心象風景が現実とシームレスにつながっていく演出・映像も魅力的。