可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『横尾龍彦 瞑想の彼方』

展覧会『横尾龍彦 瞑想の彼方』を鑑賞しての備忘録
埼玉県立近代美術館にて、2023年7月15日~9月24日。

横尾龍彦(1928-2015)の回顧展。美術教師の傍ら制作を続けた1960年代の作品を紹介する第1章「北九州からヨーロッパ、東京へ」、垂らし込みやデカルコマニーによる偶発的下地に異国風の人物や神話的な動物の姿を描き「地獄絵の画家」とも称された1970年代を中心とする作品を並べた第2章「悪魔とエロスの幻想」、青を基調とした作品を多数手掛け、作家自ら「青の時代」と名付けた1970年代後半から1980年代にかけての作品を展観する第3章「内なる青を見つめて」、ドイツに移住することでかえって禅画など東洋的な作風を展開した1980年代後半から1990年代の作品を展示する第4章「東と西のはざまで」、晩年の活動を辿る第5章「水が描く、風が描く、土が描く」の5章で構成される。

東京美術学校卒業後に2年間ほど神学校に通い、カトリックの学校で美術教師をしていた。第1章では、礼拝堂に集う神父や信徒を描いた《教会》[Ⅰ-6]やラファエロの作品で知られる旧約聖書をモティーフとした《エゼキエルの幻視》[Ⅰ-11]などキリスト教に纏わる作品が並ぶが、《教会》[Ⅰ-6]の闇に蠢く存在にせよ、《エゼキエルの幻視》[Ⅰ-11]の混淆した生きものにせよ、キリスト教からの逸脱を感じさせる。煙の中に女性の身体(の部位)が浮かぶ《香煙》[Ⅰ-18]などには、1970年代の《秘儀》[Ⅱ-2]や《錬金術師》[Ⅱ-8]などで描かれる錬金術の世界に対する志向が窺われる。
1970年代の作品群では、デカルコマニーなどを用いた下地に岩あるいは水や煙といった流体を表わし、そこに溶け込ませるように鏤められた女性の身体や獣は未だ写実的な明確な姿をとっている。それが「青の時代」になると、全てが水の中に没したようなぼやけた効果が与えられている。ドイツ移住後は《円相》[Ⅳ-5]を始めとする禅画のテーマが表わされ、具体的なモティーフはほとんど消えて、限りなく抽象的な作品となる。晩年に至っても《アポカリプス》[Ⅴ-6&12]などキリスト教を主題とした作品も継続して制作されているが、公開制作のパフォーマンスを行うようになって描かれるモティーフよりその過程が重視されたようだ。