展覧会『藝大アーツイン丸の内2023 三菱地所賞受賞記念展示』を鑑賞しての備忘録
丸ビル マルキューブにて、2023年10月16日~22日。
三菱地所賞の美術部門受賞者の作品を展観。小坂初穂(油画)は闇に落ちる火の玉を捉えた映像作品《Gienah》を、黒瀧舞衣(彫刻)は人間の誕生・発生を1本の木に表わした彫刻《生命の門》を、渡邉みゆ(工芸)は可塑性のない焼き物で制作したコマ撮りのアニメーション《ひつじの夢》を、FENG SHENG SHIN(デザイン)は臓器に自意識を認める身体内アニミズムの観点から制作した《自画像─体内の私と私と私と私たち》を、LI MUYUN(先端芸術表現)は旧ソ連宇宙飛行士セルゲイ・クリカレフを主人公としたラジオドラマ《まもなくポイント・ネモに墜落する私たち》を、HARMANDAR ÇAĞIL(映像研究科)は視覚認識を1枚の布に擬えて制作した映像作品《Vision》を、それぞれ出展する。
小坂初穂の映像作品《Gienah》は、真っ暗な画面。聞こえてくる何であるとは分からない音から屋外であることは分かる。線香花火の火玉のようなものが落ちる。赤熱の球体は微かに音を立てて転がると、すぐに色を失って闇の中に溶けてしまう。だがごく小さな光の粒を残す。実は線香花火の火玉ではなく、熱されたガラスの火玉だったのだ。再び、赤熱する球が転がり落ちて、色を失い、微かな光を残す。これが繰り返される。闇に点在する光の粒が増えると、街の夜景を高い位置から捉えた映像と見紛う。だが徐々に画面の上方が明るくなり、雲のかかる空がぼんやりと姿を現わす。さらにその下には海が広がっていることが分かる。露と落ち、露と消えにし、という人間存在の儚さと、その儚い存在が残す微細な光に対する希望とが、朝焼けのフィナーレに向かって静かに歌われる。SHIMURAbrosの作品、とりわけ《Chasing the Light》を愛好する者はお薦めしたい。
FENG SHENG SHINの《自画像─体内の私と私と私と私たち》は、1枚が数メートルに及ぶ紗の帯の支持体5枚に、自らの身体とその内部の世界を描き出した絵画作品。腹の臍を眺める姿、身体の中の臓器、細胞へと、マクロからミクロへと身体のイメージが重ねられてる。悪魔ないし怪物のようなキャラクターも現われる。風により揺れ動きじっとしていない画面は、コントロールできない身体を表現する。聞いたことの無かった身体内のアニミズム、レーン・ウィラースレフの民俗学など、に言及した自作解題も興味深く、作品に対する興味も大いに増した。
HARMANDAR ÇAĞILの《Vision》は、眼球と視覚世界をテーマとするドローイングによるアニメーション。眼球の球体は世界そのものである地球に擬えられ、視覚が世界を構成していることを示す。また、その視覚像は布として拡がり、視覚像=世界に覆い隠されていることが表現される。すぐに溶け出し、流れ、ときに弾け、あるいは揺れる線へ回収される。白い画面に黒い線が起こす目眩く変化に引き込まれる鑑賞者は、いかに視覚に囚われているか思い知らされるだろう。