可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『動物園にて―東京都コレクションを中心に』

展覧会『動物園にて―東京都コレクションを中心に』を鑑賞しての備忘録
東京都美術館〔ギャラリーB〕にて、2023年11月16日~2024年1月8日。

日本最古の動物園である上野動物園に纏わる資料や美術作品を辿り、動物園について考察する企画。
展示室の入口では、プロローグ「『動物園』へ」として、1936年頃と1960年の動物園を訪れた家族の動画2本[001-002]を併映。動物園の一般的なイメージである行楽場所としての姿が示される。第1章「動物を集める・見る」では、「動物園」誕生以前の日本について紹介。幕末の鳥を食べる虎の見世物の引札[003]、明治初期の馬の上に立ったり寝たりしての曲馬、空中ブランコなどの軽業興行の錦絵[004]など、見世物としての動物、また、殖産工業政策の一環で博覧会が組織される中、展示された動物[008-009]が示される。第2章「『動物園』を描く・写す─明治期~昭和初期の写生・宣伝美術」では、1882年に上野公園内に移転した博物館(現在の東京国立博物館)の付属施設として開設された動物園(現在の上野動物園)と、その隣に1889年に開校した東京美術学校との関わり、また、1923年に上野公園とともに宮内省から東京市に移管された動物園のグラフィックデザインを手掛けた田井正忠の資料を紹介する。第3章「『動物園』と戦争」では、動物が戦争に用いられたこと、戦時下に動物が殺処分されたことについて取り上げる。第4章「『動物園』を描く・写す─東京都コレクションを中心に」では東松照明[047-049]や林隆喜[055-058]の写真や、相笠昌義[052-053]の絵画など、動物園に取材した美術作品を展観。エピローグ「『動物園』から」では酒航太の撮影した動物たち[059]が紹介される。

博物図譜は、動物学的な関心を示すものである。だが庶民と動物との関わりは、珍奇な動物、あるいは調教した動物や動物を用いた軽業など、見世物として、また国家と動物との関わりは、殖産興業政策下の博覧会・博物館において、食肉利用を始め家畜としてである。だが生きた動物に向けられる眼差しは珍奇さに対する興味関心や利用だけに止まることはない。動物慰霊が行われるのは、動物に人間と同じものを見て取るからだろう。東松照明の撮った動物は生活臭漂う人間のアナロジーであるし、酒航太の撮る動物は街角でのスナップショットのようである。逆に相笠昌義は人間を動物園の動物のように観察して描き出している。動物を飼い慣らすことができるのは、人間を飼い慣らすことができるからである。動物は人間の鏡なのだ。だからこそ、本展はプロローグとエピローグとで「『動物園』へ」と「『動物園』から」というように、反射しているのである。

仏蘭西曲馬の錦絵[004]には馬を操るトップレスの女性の姿も目を引く仕掛け。
中島仰山の描くシマフクロウ[016]の愛らしさは科学の冷徹な目に止まらない。
将軍の墓所のある寛永寺で家畜を飼養したのは、薩長藩閥政府による当てつけもあったか。
三浦文治の東京美術学校卒業制作《動物園行楽》[031]は上野動物園の描写に宮曼荼羅の構図を当て嵌めている。