可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 鈴木のぞみ個展『Words of Light』

展覧会『鈴木のぞみ展「Words of Light」』を鑑賞しての備忘録
第一生命ギャラリーにて、2024年1月17日~2月7日。

日常に存在する穴をピンホールカメラの穴として用いて撮影した写真によって構成される、鈴木のぞみの個展。

《小川町の穴》は、スライド映写機により、板壁の節穴、ドアの鍵穴、椿の葉の虫喰い穴、螺旋の取れた螺旋穴、側溝の覆いの隙間、舗装の割れ目など、街角の片隅に潜む小さな穴の存在が次々と映し出されていく。作家は、そのような穴をピンホールカメラの穴として利用して、その穴を通じて見える光景を感光剤に定着させている。実際に得られたイメージが「Monologue of the Light」シリーズとして提示されている(11点を展示)。リバーサルフィルムを用いた「Words of Light」シリーズ3点や、鍋の蓋に開けた穴を通じて鍋底に塗った写真乳剤にイメージを定着させた《光を束ねる:鍋》も、同じくピンホールカメラの仕組みを使って撮影された、派生的な作品である。
日常的な光景に遍在する穴を目と見立てるのは、ビッグブラザー的な監視社会――天網恢々疎にして洩らさず?――に対する揶揄と解する余地もあろう。だが得られる像は必ずしも鮮明な像ではない。作品の多くにおいては明確な形を捉えられない。デカルコマニーのような模糊とした抽象的なイメージ群である。言葉で端的に説明できるような風景は、人間の理性で捉えられた世界であり、人間中心主義に縛られていると言える。そもそも写真術のようなテクノロジーが人々の思考に枠を嵌めているのであった。言葉では説明が付かない不定形のイメージには、計り知れない多様な視点の存在が浮き彫りにされていると言えよう。それはアニミズムのような古い思考の再興でもあり、マルチスピーシーズのような新たな思考の勃興でもある。新たなイメージは、新たな思考を切り拓く可能性に溢れていると言えまいか。小学校に放置された一輪車の穴からは、光が洪水のように溢れ出すイメージが映っていた。