可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 木村萌個展『ふきよせ』

展覧会『木村萌展「ふきよせ」』を鑑賞しての備忘録
Luft+altにて、2024年1月6日~14日。

紗のように透き通る布や不定形の木片を支持体とした絵画で構成される、木村萌の個展。

《composition》(180mm×140mm)には、豆と凹凸のある鞘とを描いた作品。7つの鞘を、左上に2つ、右上に1つ、右下に2つ、それぞれ縦に並べ、左下に横向きに1つ置き、さらに横向きの1つの鞘の上には、長く残された蔓が右上に弧を描いて延びる鞘が描かれている。上下左右と中央に、線で結ぶと十字になる形で豆が5つ配されている。台の上に置いて真上から描いたように、右のやや下側から受けた光によって、鞘、蔓、豆の左側には影ができている。その影によって、上から眺めた姿では気付かない、鞘や蔓の立体的な形状が明らかになる。また、低い位置からの光は夕刻を想起させ、紗のような支持体と相俟って、儚げな印象を生む。

《眺庭》(410mm×318mm)は、黒い紗を重ねた画面の中央に、モノクロームで樹木とその奥のやや高い位置に覗く屋敷とを描いた作品。背後に透ける木枠から食み出すよう紗は貼られ、かつイメージは木枠より小さいサイズで描かれている。霧の中に束の間に姿を現わした景観のようにも、網で掬い取られた景色のようでもあり、やはり儚げな印象が濃厚である。

《流転》(273mm×220mm)には、木の実、貝殻やサンゴ、化石(?)や石などが紗に描かれている。個々の精緻な描写から、実際に作家の手元にあるものを描き出したものであろう。判然としないが、紗には波のような表現が全面に施されているらしく、木枠の木目と相俟って、波に攫われて打ち寄せられたかのような観を呈している。実際、オブジェは巡り巡って作家の下へと漂着したのである。タイトルの「流転」が示すのは漂着だけではない。作家は、庭を描き、あるいは庭を冠した作品を手掛けており、木箱に収められた本作は箱庭のイメージを引き寄せる。水を用いることなく生命の循環を表現する枯山水が意図されているものと解される。そこにもう1つの流転の意味がある。

「悪庭」シリーズは、掌に載せられる、主に直方体の木片に描画した作品で、台や棚に置かれている。木目を景色として楽しむために、僅かに色が添えられている作品が多い。小さな木片の表面に作庭する姿勢は、文人が怪石に深山幽谷を見たことに通じよう。世界を掌の上に載せる仙術の如き突出した力を「悪」の文字に籠めた作品群である。