可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 永原トミヒロ個展

展覧会『永原トミヒロ展』を鑑賞しての備忘録
コバヤシ画廊にて、2023年10月2日~14日。

ミッドナイトブルーと白のモノクロームで郊外の景観を描いた作品4点で構成される、永原トミヒロの個展。事務室に小品10展も併せて展示。

《UNTITLED 23-01》(1940mm×3240mm)は中央やや上部に向かって緩やかに登る坂道と、その両側に並ぶ建物とを描いた作品。街道に面した建物は切妻屋根の平屋か2階建ての建物ばかりで、鉄筋コンクリート造の高層建築は見当たらない。家並に比して高い、道沿いに立ち並ぶ街灯の付いた電柱は、上に向かって細くなることから木製のようだ。両側に引かれた白い路側帯に加え、電線が道に影を落とす。密集する建物には窓が見当たらず、闇として表わされる一方、誰の姿も無い通りは白く浮かび上がり、街灯がわずかに光を放っている。坂道を下り坂と見て、人口減少時代に増え続ける空き家の問題を描いた作品と解釈することもできよう。もっとも、画面手前左側には左方向に折れる道があり、その角にフェンスで囲われた更地がある。昭和の面影を伝える昔乍らのを再開発の波が襲おうとしているのであろうか。暗い街を抜ける道は奥に向かって窄まり、どこに向かうのか、見通しは立たない。

《UNTITLED 23-02》(1940mm×1620mm)は川の護岸にある放水口を描いた作品。川の土手が画面の真ん中を左右を走る。その土手の中央やや右側にコンクリート造の放水口が描かれている。放水口の闇はとにかく深く、恰もブラックホールのようだ。暗く沈んだ流れに動きは無く、水面は放水口とフェンスなどの形を鏡面として映している。護岸に生えた草、土手の上に立つ樹木は――水面の穏やかさからすれば――風に揺れる訳でもなかろうが、ぼんやりとした淡い影となっている。
《UNTITLED 23-05》(909mm×909mm)は河川敷の橋の下を描いた作品。中央に立つ鉄筋コンクリート造の橋脚の周囲を囲むベンチが左手前から右奥に向かって円弧を描いて並び、奥に向かって霞んでいく。右奥のぼやけた辺りには倉庫のような建物が立ち並ぶ。橋と橋が落とす影との闇が画面を支配する。
《UNTITLED 23-03》(1303mm×1939mm)は陸橋を描いた作品。中央よりやや低い位置を横切る陸橋の下には道路が奥に向かって延びる。その道の先には工場のような建物が1棟立つ。その他に建物は見えず、空が拡がる。画面右上にはアームの先の街路灯が覗いている。

4点ともタンニン酸により明度を下げたサイアノタイプのような風景画である。作家の地元・岸和田の景観に基づいているそうだが、すぐに場所が特定できるようなユニークなランドマークは避けられ、どこにでも見られそうな風景に見える。民家・街路を描いた作品であっても人の姿はないことも、匿名性を高めている。景観自体がそもそも写像なのかもしれない。《UNTITLED 23-01》や《UNTITLED 23-03》のカーブミラー、《UNTITLED 23-02》の水鏡は、映像(reflection)であるとともに、そのような景観を生み出した来し方に反省(reflection)を促すようだ。道は何処へ向かって延びるか分からず、闇は濃い。