可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 三森早苗個展『うちへ そとへ』

展覧会『三森早苗展「うちへ そとへ」』を鑑賞しての備忘録
GALERIE SOLにて、2023年10月9日~14日。

羊毛のフェルトを支持体とした作品16点で構成される、三森早苗の個展。

《混》はピンクのフェルトに色鉛筆で色を塗った平面作品のシリーズ。900mm平方の正方形の《混》を中心に、その左側に縦長の長方形の《混》(900mm×545mm)をやや高く、右側に小さい正方形の《混》(480mm×480mm)をやや低く、それぞれ配した3点で展示されている。ピンクのフェルトに群青の色が拡がり、オレンジや緑が配される画面は、夕暮れ時の池のようであり――すぐ隣の壁面に展示される、黄のフェルトの平面作品《うちへ そとへ》(1800mm×1800mm)が緑と青とで草地にある円状の池を描いていることはほぼ疑いない――、クロード・モネ(Claude Monet)の睡蓮の池、とりわけ睡蓮の浮かぶ水面のみを描いた晩年の作品を思い起こさせる。さらに、サイズの異なる3点で構成され、段違いに配置されていることは、作品の空間への拡がりを感じさせる点でも、壁面を睡蓮の絵画で覆う「大装飾画(Grande décoration)」に執着していたモネに通じる。
もっとも、作家の作品を特異なものにしているのは、胡粉で白く塗られた部分とピンク、青の部分から成る紐状のフェルト作品《うちへ そとへ》である。長方形の《混》の下側から中央の《混》との間に直角に折れるものと、中央の《混》の上を通って小さい《混》の上側へと延びるものと2点が壁面に取り付けられ、《混》3点とともに5点セットで提示されている。白い部分は展示空間の壁面と同化する。ピンクは光、青は闇として、《うちへ そとへ》とのタイトルを踏まえれば、絵画の面と裏とを、あるいは水面の外と内(水中)とを自由に行き来する運動を喚起させる仕掛けであろうか。
穴の穿たれた黄緑の球形のフェルト作品《うちへ そとへ》(100mm×110mm×60mm)は、植物(実?)を連想させる。壁に設置された黄緑の球をいろいろな角度から眺めるうち、虫が草花を這い回るときに葉の裏表や花の内外とをどのように認識しているかなどと想像してしまう。否、想像させられているのかもしれない。緑・オレンジ・白の三色に塗り分けられたフェルトの紐による輪《うちへ そとへ》(全周6300mm)が、茅の輪のように潜る感覚――内と外とを行き来する運動――を鑑賞者に惹起させるからである。一面的な思考、あるいは内向きの思考から逃れよとのメッセージが発せられている。