可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 戸田沙也加個展『Monster』

展覧会『戸田沙也加「Monster」』を鑑賞しての備忘録
gallery10[TOH]にて、2024年3月21日~4月7日。

アーティチョークを描く絵画「Artichoke」シリーズと、フラッシュを浴びて浮かび上がるアーティチョークなどを捉えた写真「Monster」シリーズとで構成される、戸田沙也加の個展。

《Artichoke #3》(1455mm×1120mm)には草地に生えたアーティチョークを描いた作品。和服や工芸に見られる片身替りのように、画面をおおよそ左下側と右上側に分割して、草葉や土が覗く地面と朱・オレンジ・ピンクで表わした夕方の光とを背景としている。地面から伸びる2本のアーティチョークの茎は輪郭線代わりの蔭が逞しさを強調し、枝分かれしながら宙空に伸びていく。蕾が切り取られたために途中で切断された茎もあるが、多くは、密集する黄色い微細な花を覗かせる、鱗のような萼に覆われた球形の蕾を付けている。
《Artichoke #3》の隣に飾られた《Artichoke #4》(1620mm×1303mm)では、くすんだ青緑を背景に、アーティチョークの茎・葉・蕾が全面に表わされる。茎は紫の蔭で縁取られた黄緑色、萼は紫、花は黄色で描かれている。とりわけ目を引くのは明暗のオレンジと明るいエメラルドグリーンで表わされた葉である。
《Artichoke #3》や《Artichoke #4》の展示される壁の向かい側の壁面には、写真「Monster」シリーズが並ぶ。その中の1点、夜、フラッシュの光で浮かび上がる《Monster #4》(297mm×420mm)は、アーティチョークが闇夜に蠢くような怪しい存在感を放つ。作家は生命の持つ悍ましささえ感じる力強さを捉えようとしているようだ。
ところで作家は、美と醜とが表裏一体で、美と同様、醜にも魅了されるとの主旨のステートメントを本展に寄せている。《Monster #4》ややはり夜にフラッシュ撮影した草花を捉えた写真《Monster #4》、あるいは一面レモン色で塗った画面とアーティチョークを青緑を背景に表わした画面とを対にした絵画《Artichoke #5》(各450mm×370mm)では光と闇が、《Artichoke #3》では蕾の付いた茎と切り取られた茎によって生と死が、そして何より絵画では補色が組み合わされることで正反対のものが――岡本太郎の対極主義のように反対のものがぶつかり合うことで生じる効果を狙うのではなく――当然のように同時存在する世界が表現されている。互いに異質なものをモンスターとして排除し合うのではなく、その価値を尊重することにこそ作家は理想を見出しているようだ。モンスターとさえともに過ごせる世界こそ真に多様な世界であり、理想的な世界であると。