可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 堀込幸枝個展『明るい水』

展覧会『堀込幸枝「明るい水」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリー椿にて、2024年3月23日~4月6日。

水槽の水を描く表題作「明るい水」シリーズを始め、水をテーマとした油彩画で構成される、堀込幸枝の個展。

《明るい水 1》(1620mm×1305mm)には淡い紫の画面に2つの直方体のガラス製と思しき水槽が並ぶのが正面よりやや左側から描かれる。右側の水槽ではそれぞれの水槽には半分よりやや高い位置にまでやや黄緑に濁った水が入っている。右側の水槽には何かは分からないが白いものが水面近くに浮く。左側の水槽には隣の水槽の白いものが作る影か隅に映る。画面全体が靄がかかるように霞む。濁った水は「明るい水」とは言い難い。ちょうど右側の水槽では角が作る線が光の屈折により水面を挟んで連続しないように、あるいは右側の水槽の白い何かの影が左側の水槽に現われるように、ズレている。恐らくは作家の関心が光の屈折に象徴される、水による視覚効果にこそある。
実際、《雨との距離 1》(320mm×410mm)では、縦の方向の筆運びにより淡い群青ないし灰青で塗られた画面の中央に、黄色や赤が浮かび上がる。人物か洗濯物か、その他の何かは分からない。ただ雨が降る中で――さらに窓越しであるかもしれない――モティーフを捉えたものだろう。ここでも水によってもたらされる視覚効果に関心が向けられている。また、本展作品作品中で一番明るい色遣いの《湿度といろ 1》(380mm×455mm)では、緑の濃淡により草原と奥の茂みとが、恰も水をたっぷり含ませて描いた水彩画のような趣で、ぼんやりと表わされている。雨が降っているにしては明るさがあり、画題から空気中の水蒸気の効果を誇張して表現したのかもしれない。ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner)の《湖に沈む夕日(Sun Setting over a Lake)》(1840)、さらには等伯の《松林図屏風》に連なる試みではないか。
翻って、《明るい水 1》は紫色の画面に緑味を帯びた水を描いた水槽を描いた作品である。淡い紫と緑とは、クロード・モネ(Claude Monet)がジヴェルニーに水の庭を造って描いた「睡蓮」連作の一部に見られる色の組み合わせを想起させる。水槽も池も人工的な水の環境である。作家が表わした模糊とした白い何かは、モネの育てた睡蓮に比せられる、人工環境下で生まれる生命を表わしたのかもしれない。それは希望の光であり、それを育む水こそ「明るい水」である。そこには必然的に影が随伴する。