可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 滝本優美個展『#絵の具を描く』

展覧会『滝本優美個展「#絵の具を描く」』を鑑賞しての備忘録
(hIDE)GALLERY TOKYOにて、2023年9月2日~18日。

正方形の画面の抽象絵画で構成される、滝本優美の個展。

《over green》は黄緑の画面。左端近くに縦方向に白で肥痩のある線が画面を貫き、その線の右側で平行する白線が、画面中央やや下の位置で右に向かって90度で折れ、L字を描く。そのL字の下に平行する線が左側の縦の線から分岐していた痕跡が、黄緑の下に窺える。画面の上端の右側には黄色の線が配される。画面の上側は黄緑の擦れたところから白い絵具が覗く。画面の下側は黄緑の下層にある紺の絵具が透ける。上部の黄色が陽光を、下部の紺が蔭や水を、全体を包む緑が茂みか芝を表わすものとして、公園のイメージを生み出す。また、絵具の塗り重ねや擦れに着目すれば、公園の遊具やサッカーなどのゴールなどを連想するかもしれない。いずれによせ、ペインティングナイフによる硬質さは、自然景観より、晴れた休日の昼下がりの公園のような、都市部の緑地にいる感覚を覚えさせる。
《play park》は、画面右端と下半分を"」"状に灰色が覆い、画面上部の大部分を緑が占め、残りにオレンジと藍の色面が配される。灰色のグラウンド、緑の芝生、オレンジの花壇、藍や水色の水辺と、色それぞれに公園にあるものを割り当てることもできそうだ。あるいはビル群に囲まれた公園であるかもしれない。灰色の面積が大きい上に、隙間から明るい水色や黄色、クリーム色が覗くために、建物に覆われた都市の閉鎖的環境の印象があるからだ。
《between》は、クリーム色の画面の下部を淡い群青の矩形が占める。左端には同じ淡い群青を、右端には灰色を、それぞれ縦に配している。淡い群青の矩形の左上にはわずかにオレンジが覗く。《handle》は明るいクリーム色で塗り潰した画面の右上や左下にオレンジ色が塗り残されている。やはり作家の関心は、塗り潰された色面によって隠しきれなかったもの、あるいは隠されていたものに向けられている。それは失われたものに対する憧憬に端を発するのかもしれない。そしてその憧憬は日夜変貌を遂げる都市環境によって醸成されたものではなかろうか。
再開発やジェントリフィケーションは、コンクリートやガラスだけによって行われる訳ではない。植栽や水辺の場合もある。いずれにせよ地形ごと変えてしまう規模の開発も行われている。それでも、その改変の中に残されたかつての景観を辿るよすがに作家は着目するのではなかろうか。そして、風景画として具体的に提示するのではなく、画面に塗り残された色、あるいは絵具の下から透ける色を、恰も一辺のプティット・マドレーヌのように差し出すのである。
また、作者の眼差しを投影した作品には、何かを見せまいと別のものを見させられていることが常態の、情報の溢れる社会が反映されているとも言えるかもしれない。