可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 桑原理早個展

展覧会『桑原理早展』を鑑賞しての備忘録
ギャラリーなつかにて、2024年3月9日~16日。

様々なポーズの女性の身体を組み合わせた絵画で構成される、桑原理早の個展。

《姿見》(910mm×652mm)には身体を捻った姿の女性を中心に、頭を抱えて蹲る女性など数人の女性の身体が、木炭に加え、念紙によるオレンジ、緑、茶の線で複雑に重ねられており、下絵のようにも見える。複数の身体(場面)が重ねられているという点では異時同図的であり、複数の時間を1枚の画面の中に落とし込んでいる。
《閃く傷》(1303mm×1940mm)は薄墨を刷いた画面に女性の身体のイメージが重ねられている。紙を破り継いであるのは料紙装飾を想起させるが、破り継ぎあるいは重ね継ぎが女性の身体を描いた紙について行われていることからハンス・ベルメール(Hans Bellmer)の人形に通じるものが見て取れる。
出展作品中最大のサイズの《無尽蔵》(1455mm×3360mm)はF80号3枚を横に連ねた画面。右の画面に左手を首に回して横になる女性が描かれる。中央の画面には身体を前傾させた女性、左肘を曲げ右腕を上げたセーラー服の女性、腰を浮かして床に倒れ込んだ女性が、恰も前転の場面をコマ撮りするように配されている。左の画面には蹲り、あるいは俯せになった4人の女性たちの身体が積み重ねるように描かれている。右から左へと身体の数が増えていく。中央に回転運動を挿入していることからも、女性の身体で渦巻く流れを表現しているものと解される。横山大観の絵巻《生々流転》における滔滔と流れる水が、作家の作品では女性の身体として表わされているのだ。水=生命は循環するがゆえに無尽蔵なのである。《姿見》や《閃く傷》などの積層に対し、水平方向の運動を表現して好対照をなす。