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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『重塑-Rebuilding 多摩美術大学日本画専攻卒業生・修了生四人展』

展覧会『第24回大学日本画展 重塑-Rebuilding 多摩美術大学日本画専攻卒業生・修了生四人展』
UNPEL GALLERYにて、2024年3月16日~31日。

多摩美術大学日本画専攻の卒業生あるいは修了生である4名の作家の作品を展観する企画。
永田優美は少女のみをモティーフに画面を構成し、山内明日香はデジャヴをテーマに色彩を画面に乱舞させる。

阿部エリカは《Dawn/黎明》(1167mm×1167mm)において2本の樹木が絡み合うように枝を広げる様子を表わす。裸木で表わしたのは、2本の樹木を男女の、そしてその交わりを交接のメタファーとする意図があってのことかもしれない。遠からず訪れる春に新たな生命の誕生が託されている。それを黎明としているようだ。精密な枝の描写のみならず、寒々しさの中にどこか温かみを宿す、あるいは光を内に秘めたような背景の描写も注目である。《白、或いは静寂》(970mm×1620mm)は銀世界の木々の姿を表わす。雲母を用いて皺が寄ったような表情を持つ。皺はノイズであるが、逆接的に森閑とした冬の森の静寂を引き寄せる。《哲学者》(1167mm×910mm)には、考える葦ならぬ、枝を大きく広げた樹木が描かれる。銀箔を貼った背景は緑や茶を呈し、地衣類などへの連想を誘う。主体と客体、あるいは図と地といった二項対立から、環境を構成する様々な存在の立場に配慮したマルチスピーシーズへと発想の転換を促す。

林銘君の《出口》(1620mm×1120mm)には、暗い空間の上部に黒い棒が渡されて、そこに白いカーテンのようなものが懸かっている様が描かれる。「カーテン」は細い線による格子模様が入った方眼紙のようなデザインで、折り曲げられて襞状になっている。「カーテン」が途切れた右側には紙でできた烏の模型が黒い糸で吊り下げられている。烏の模型に連なるように「カーテン」には烏が低い位置から飛翔するイメージが輪郭線のみで連続的で表わされている。林銘君の《出口Ⅱ》(1620mm×1120mm)は《出口》と同様のモティーフで構成される。左側に「カーテン」と「カーテン」との隙間があり、黒い糸で吊り下げられている烏の模型が覗く。その烏が高度を下げながら飛んでいく様子が輪郭線のみで連続的に描かれている。《出口Ⅱ》では輪郭線が烏の動きによって歪んだように表わされているが、この表現は《出口》には見られない。左右隣同士に並んだ《出口Ⅱ》と《出口》とによって、烏が一旦高度を下げて、再び元の高さに飛翔したようなイメージを形成している。
しかし出口などカーテンの下げられた暗い空間の一体どこにあるというのだろうか。タイトルとイメージの関係は、烏が吊り下げ(pending)られているように、保留(pending)されているのだろうか。
作家が烏の立体的な模型を「カーテン」において飛翔するイメージと連続させていることに着目しよう。作家は《出口》・《出口Ⅱ》において二次元から三次元、あるいは三次元から二次元へと烏を自在に行き来させている。すなわち烏は二次元の画面から三次元の展示会場へ飛び立てばいいのである。次元を高めることで、結び目を解くことができるということを作家は訴えるのだろう。
この解釈の根拠は、両作品の隣に展示されている《降り立つ》(727mm×1454mm)にある。暗い空間に二曲一隻の屏風が5枚ほどほとんど折り重なるように展示されている様が描かれている。れぞれの屏風には枯れ木が表わされ、そのうちの一隻には枝に結ばれた糸から紙製の烏の模型が吊され、あるいは床に落ちている。枯木寒鴉図のヴァリエーションと言える。注目すべきは、ここでも平面と立体という二次元から三次元への転換が表現されていることである。そして、この作品自体が二画面を蝶番によって繋いだ二曲一隻的な作品になっているということである。モティーフと絵画作品そのものとの入れ籠の関係によって、やはり二次元から三次元への転換が繰り返されているのである。作家が次元を操作する意図があるのは明白なのだ。