可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ケイティ・レイマン個展『Words to live by』

展覧会『ケイティ・レイマン「Words to live by」』を鑑賞しての備忘録
MARGINにて、2024年3月30日~4月27日。

レトロなコンピューター画面のイメージを部分的に用いた絵画を制作する、ケイティ・レイマン(Katy Layman)の個展。

《I love you and I'm proud of you》(1303mm×970mm)は、"I love uyou and I'm proud of you."と刻まれた墓石の花立に赤、白、青、黄、ピンクの花が溢れるように活けられた様を描く。墓地は見晴らしの良い場所にあるようで、花入れの脇からは森の拡がりが見渡せ、その上には雲がかかった空が広がる。花卉と墓石の組み合わせはヴァニタスであり、文字通り絵に描いた景観に突如出現したような墓はルネ・マグリット(René Magritte)の作品に通じるものがある。作品をとりわけユニークなものにしているのは銘文が(前世紀の?)ヴィデオゲームのメッセージのように、ピクセルフォントで表現している点である。同様に《I missed you》(180mm×180mm)には、開けた草地にある、花を供えた墓石にメッセージウィンドウと"I missed you"とのピクセルフォントの文字が刻まれている。《Gone too soon》(410mm×318mm)にも草地に立つ花を供えた墓が描かれているが、墓石の表面には8×7個のブロックとカーソルとが刻まれ、マインスイーパが表現されている。カーソルがいきなり地雷を当ててしまっており、"Gone too soon"の文章の代用となっている。
《Patience》(273mm×220mm)にはすぐ後ろに植栽のある草地に立つ墓が描かれる。墓石の一部は苔が覆い、中心にはモザイクが刻まれている。やや距離を置いて見ると、モザイクはピクセルアートで描かれた女性の顔であるらしい。会場のハンドアウトによれば、作家は、墓参の際の故人との対話を「いつでも特定の場所にいて、話しかければ同じ台詞を繰り返すロールプレイングゲームNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との交流」に擬えているという。ならば絵画を鑑賞することもまた墓参であり、NPCとの交流であろう。鑑賞者は生きていくためのメッセージ(words to live by)を絵画から引き出しているのだ。他者の感情や思考は推し量ることしかできないとすれば、作家はコミュニケーションの幻想を炙り出しているとも言えそうだ。