映画『パスト ライブス 再会』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のアメリカ・韓国合作映画。
106分。
監督・脚本は、セリーヌ・ソン(Celine Song)。
撮影は、シャビアー・カークナー(Shabier Kirchner)。
美術は、グレイス・ユン(Grace Yun)。
衣装は、カティナ・ダナバシス(Katina Danabassis)。
編集は、キース・フラース(Keith Fraase)。
音楽は、クリストファー・ベアー(Christopher Bear)とダニエル・ロッセン(Daniel Rossen)。
原題は、"Past Lives"。
ニューヨーク。バーのカウンターに1人の女性(Greta Lee)を挟んでアジア系の男性(Teo Yoo)とヨーロッパ系の男性(John Magaro)が坐るのを離れたテーブルにいるカップルが話題にする。どういう関係だと思う? さあ、さっぱり。分からないわよね。白人男性とアジア人女性がカップルで、アジア系の男性は彼女の兄弟じゃないか。アジア系の男女がカップルで白人男性が2人の友人なのよ。アジア系の2人は白人の男と口を利かないな。2人は観光客で白人の男がガイドなのかも。朝の4時まで飲むか? たしかにあり得ないわね。職場の同僚だろう。分からないわ。
24年前。ソウル。住宅街の狭く長い階段を泣きながら登るムン・ナヨン(Seung Ah Moon)の後をバスケットボールを手にしたチョン・ヘソン(Seung Min Yim)が付いて来る。何で泣いてるの? 試験で2番だったから泣いてるの? 僕が1番だったから怒ってるの? うん。ねえ! 僕はいつも2番だったけど泣かなかったよ。初めて君に代わって1位になったのに君に泣かれたら僕がどんな気持ちになると思う? ヘソンが階段を降りていく。
ナヨンが妹のシヨン(Seo Yeon-Woo)とともに両親の仕事部屋に顔を出す。中央には向かい合う机に父親(Choi Won-young)と母親(Ji-Hye Yoon)がいて、煙草を吸っていた。周囲には本や映画フィルムの缶やヴィデオカセットなどが積まれ、段ボールに梱包されるのを待っている。ステレオからはレナード・コーエンの柔らかな歌声が響く。決めたよ。何を? 私がミシェル、シヨンはメアリー。シヨンがミシェルにしたいって言ってたでしょ。なぜ妹の名前をとるの? いいのがないんだもん。でもシヨンの名前は使っては駄目。もう少し考えて。レオノーラはどうだ? 約めてノラ。ノラ・ムンか。
居間で移住のための必要書類を準備している母親からナヨンは誰が好きか尋ねられる。ヘソン。何で? 男らしいから。男らしいか。多分彼と結婚する。本当に? 彼も結婚したいって? 私のことが好きだから、私が言ったら結婚するわ。デートする? ナヨンが微笑んで頷く。
ソウル近郊、ソウル国立現代美術館の屋外彫刻公園。巨大な人物の立像の周りでナヨンとヘソンが燥いでいるのをナヨンの母親とヘソンの母親(Ahn Min-yeong)が見守っている。お似合いの2人ね。ヘソンはよくナヨンの話をするの。ナヨンはヘソンのことが好きだって言ったわ。もうすぐカナダに渡ります。だからナヨンに思い出を作ってやりたかったの。移住するの? そう。なぜ移住するの? 旦那さんは映画監督であなたは作家でしょう。それを抛ってしまうの? 何かを捨てれば、何か得るものがあるの。
目や鼻や口を表わした口がズレて組み合わさった2つの顔の石彫作品でヘソンとナヨンが遊ぶ。
帰りの車。後部座席でナヨンがヘソンに凭れ掛って眠る。ヘソンは流れゆく景色を見詰める。
小学校の教室。カナダに移住するナヨンが級友たちに質問されているのをヘソンが黙って聞いている。本当に出てっちゃうの? うん。戻ってこないわけ? うん。何で出てくの? だって韓国人じゃノーベル文学賞取れないでしょ。
ヘソンが校舎を出て来る。待っていたナヨンがヘソンの隣を歩く。2人は黙って家に向かって歩いて行く。三叉路に辿り着いてしまう。ねえ! 何? さよなら。ヘソンは左へ曲がる道に向かい、ナヨンは右の階段を登っていく。
ナヨンの一家が飛行機に乗りカナダへ向かう。機内でナヨンはシヨンと英会話を練習する。トロントの空港に到着。移民局で移住の手続きを取る。
ノラに改名したナヨンが校舎の壁に凭れ掛り、皆が遊ぶ様子をぼんやり眺めている。始業のベルが鳴る。
12年後。ヘソン(Teo Yoo)は韓国で兵役に就いていた。劇作家のノラ(Greta Lee)はトロントからニューヨークに渡った。
2000年。ソウルに住む初等学校6年のムン・ナヨン(Seung Ah Moon)は映画監督の父親(Choi Won-young)と作家の母親(Ji-Hye Yoon)、そして妹のシヨン(Seo Yeon-Woo)とともにトロントに移住することになった。ナヨンの母親がナヨンの思い出作りにとナヨンと両思いの同級生チョン・ヘソン(Seung Min Yim)を誘って屋外彫刻公園に遊びに出かけた。ナヨンの最終登校日、ナヨンはヘソンとともに下校する。2人は一言も発さずに分かれ道まで来ると、ヘソンが一言さよならと言って、2人はそれぞれの道を行く。
12年後。劇作家のノラ・ムン(Greta Lee)はニューヨークに渡る。母親とのヴィデオ通話で話題に上った幼馴染みのチョン・ヘソンの名を検索してみると、父親のフェイスブックに「ナヨン」を探しているとの投稿を見付けた。早速ノラはヘソンに連絡を取る。工学部の大学生になっていたヘソンはノラという心当たりのない女性からのメッセージに戸惑うが、写真を見て必死に探していたナヨンだと気付く。2人はネット通話で12年ぶりの再会を果す。すぐに打ち解けた2人は頻繁に連絡を取り合い、実際に対面する日を待ち焦がれるのだった。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
幼馴染みのムン・ナヨンとチョン・ヘソンが離れ離れになり、12年後にネット上の再会をきっかけにお互いに恋心を募らせるが、劇作家として成功を収めたいナヨンがヘソンとの距離を取ったことから2人は再び離れ離れになる。
袖振り合うも多生の縁。人との出会いには前世の因縁がある。タイトル『パスト ライブス(Past Lives)』は1つには前世が表わされている。同時に、24年前のナヨンとヘソンがともに過した日々、12年前の2人それぞれの生活とネット上で見つめ合った日々など、作品が描く過去の生活を指す。
幼いナヨンとヘソンが胸がいっぱいで言葉も見つからず、一緒に歩いて下校するシーン。一緒に歩くこと、その豊かさよ。三叉路で一言さよならとナヨンに声をかけて立ち去るヘソン。それは、24年後に変奏されて繰り返される。そのとき、現世を前世とした来世への期待が披瀝されるだろう。