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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 カワイハルナ個展『反復のすき間』

展覧会『カワイハルナ「反復のすき間」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店〔インフォメーションカウンター前〕にて、 2024年3月30日~4月26日。

幾何学的形態を何かの装置のように描き出した絵画6点(キャンヴァスを支持体とした3作品と紙に描いた3作品)で構成される、カワイハルナの絵画展。

キャンヴァスに描いた《円形パターン》(720mm×910mm)はごく淡い青味のある緑の画面に、レモン色の八角形の枠に収められた12個の白い球が描かれる。8つの角ごとにあるくすんだ藍色の薄い板が白い球を2つと1つと交互に仕切っている。白い球のそれぞれの下側には三日月状の薄い灰色の部分があり、八角形の枠のレモン色は面により濃いものと薄いものとに塗り分けてある。何より、斜め横から描き出したように見える角度の付け方によって、立体的に表現される。上側の8つの球はぎっしり詰められることで落ちないように見える。他方、下の4つの球は両脇に隙間があるために、自重で下に寄ってきたようだ。球、枠、板が力学の法則に従っているように見えるために、作品は冷たい幾何学的抽象画から遊離して、具体的な装置を描いた絵画として姿を現わす。遠目に見るとコンピューターで描き出力したかのようだが、実は手書きで塗り斑や筆触が表情となっているのも人肌を感じさせる作品となる所以である。
同じくキャンヴァス作品《反復》(450mm×330mm)にもレモン色の枠に収められた白い球が描かれている。灰色の画面に描かれるレモン色の枠は直方体である。2つの白い球体が茶色い細い棒により縦に串刺しになって連ねられ、その間にもう1本の棒が挟まれている。
キャンヴァス作品《間を遮る》(910mm×720mm)には2枚の衝立のような枠が並び、その間を遮る白い板や、それら全てを結び付ける、重しで支えられる白い帯が描かれる。レモン色の画面に、窓のように大きく穿たれた部分を持つ衝立が2枚、黄色と黄褐色のものが前後に並ぶ。その間にワ冠状の白い板が、2枚の衝立から垂らされた白い帯によって浮かされている。白い帯が2枚の衝立の前後で暗いオレンジ色の三角柱状の重しで引っ張られることで、白い板の重みを支えているらしい。《円形パターン》と《反復》とがいずれも白い球の間を遮る作品であったのに対し、《間を遮る》では白い板と白い帯によって衝立の大きな開口部が遮られ、視界に対する干渉の程度が増すことで「間を遮る」感覚が前面に出ている。同時に、遮蔽の白い板を支える白い帯が重しで引っ張られている点に、装置としての印象が強められている。
役に立たない装置、あるいは目的を持たない装置というのは、装置が何らかの目的の手段となっていないということである。そのような装置を繰り返し描き出す作家は、イマヌエル・カント(Immanuel Kant)の「目的の国(Reich der Zwecke)」を作品に出現させようとしているのかもしれない。