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芸術鑑賞の備忘録

映画『魂のゆくえ』

映画『魂のゆくえ』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ・イギリス・オーストラリア合作映画。
監督・脚本は、ポール・シュレイダー(Paul Schrader)。
原題は、"First Reformed"。

ニューヨーク州北部にあるファースト・リフォームド教会は、250年前にオランダ人入植者によって建設され、独立戦争時の弾痕や黒人奴隷の逃亡路「地下鉄道」の「駅」の遺構が残る由緒のある教会だ。しかし、現在では礼拝に訪れる信徒は少なくなって資金繰りは苦しく、オルガンは音が出ない。時折観光客が訪れる「博物館」か「土産物屋」と化している。この教会で牧師を務めるアーンスト・トラー(Ethan Hawke)は、かつて従軍牧師であった。父や自らと同じように息子ジョセフにも従軍牧師の道を歩ませたが、イラク戦争で死なせてしまい、それがきっかけで妻のエスタ―(Victoria Hill)とも離婚することになった。軍を離れたトラーは、アバンダント・ライフ教会の牧師ジョエル・ジェファーズ(Cedric Kyles)に、今の地位を世話してもらったのだった。トラーは息
子の死に対する自責の念から酒量が嵩み、体調を崩しているが、それでも酒を止められずにいる。トラーは、自らの考えを整理するため手書きの日記を書くことにした。ある日、礼拝に出席していたメアリー(Amanda Seyfried)から、夫のマイケル(Philip Ettinger)の相談に乗って欲しいと頼まれる。トラーはアバンダント・ライフ教会を薦めるが、メアリーは企業みたいな雰囲気が気に入らないとトラーを望む。メアリーによれば、熱心な環境保護の活動家であるマイケルは、カナダで逮捕された後塞ぎ込んでいて、懐妊した子供の将来を悲観するあまり出産を受け容れられないでいるという。翌日、夫妻の家を訪れたトラーに対し、マイケルは科学的な根拠を示して環境問題の悲観的な展望をまくし立てる。トラーは子供を失うことの絶望の大きさを伝えることで何とかマイケルを説得しようと試み、翌日に再び話し合うことにして辞去する。翌日、ファースト・リフォームド教会の250周年記念式典の件で、アバンダント・ライフ教会にジェファーズを訪ねた際、メアリーから夫の都合で面会のキャンセルのメールを受ける。その後、メアリーからすぐに自宅に来て欲しいと連絡を受けたトラーが案内されたのはガレージで、そこにはマイケルの用意した爆弾を仕込んだベストがあった。マイケルには自分から話をつけると、トラーはベストを回収し、翌日にマイケルと話し合うことにする。自宅に赴く予定であったが、マイケルから近所の公園の入口で待っているとのメールを受け、トラーが公園へ赴くと、ショットガンで頭部を吹き飛ばしたマイケルの体が横たわっていた。

 

教会のトイレで水漏れが起きている。経費を節減するためにトラーが自ら修繕を試みるが、再び水漏れが起こっている。トラーの信仰の揺らぎとそれを押さえ込もうとする姿が冒頭からこのエピソードで表される。

教会の「博物館」化。信仰の場という実質を欠いているのと疑義を突き付けている。250周年の記念式典は、「博物館」の箔を付けるものにすぎない。トラーは教会に信仰の場としての機能を回復することを企てるのだ。

トラーの悲しみや苦悩の深さがトラーの身体の変調で可視化される。トラーが生きることへの関心・執着を失っていく過程が、生活空間からモノが消えていくことで示される。そして、その空隙を埋める2つの逆方向の可能性が現われる。トラーはどちらを選ぶのか。

Ethan Hawkeが、深い悲しみと孤独とを抱えながら牧師として信徒に範を垂れるべきであるとの葛藤を穏やかな表情・態度の中で表現しているのが素晴らしい。トラーが困苦に耐えようしながらもそれを許さない状況が静かにだが着実に進展いく様に、観客もいつの間にか巻き込まれてしまう。

Amanda Seyfriedとならlevitationできそう。