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芸術鑑賞の備忘録

映画『火口のふたり』

映画『火口のふたり』を鑑賞しての備忘録
2019年の日本映画。
監督・脚本は、荒井晴彦
原作は、白石一文の小説『火口のふたり』。

勤務していた印刷会社が倒産して以来定職に就いていない永原賢治(柄本佑)が多摩川の河川敷で一人釣りをしていると、父から電話が入る。従妹の佐藤直子瀧内公美)の結婚式があるという。直子の結婚に動揺する賢治は、式まで日数はあるがすることもないため、早速故郷の秋田に向かう。母が亡くなり、父も出て行った実家は空き家とな
っていた。早朝、突然直子が家を訪ねてくる。直子は母を亡くした後、賢治の母を母親代わりとしていたため、勝手知ったる家だった。直子に買い物に付き合って欲しいと言われ、向かったのは家電量販店。新居に設置するテレビを特売品で手に入れ、賢治に運搬を手伝わせようというのが直子の魂胆だった。目当ての商品は手に入らなかったが
、二番手の商品を購入できる入店整理券を手に入れ、二人は開店を待つ。ラーメン店で食事をしながら近況や親族について話す。テレビを購入後、新居に向かう前に、直子は荷物を整理するために自分の実家に寄る。久々に早朝から起きていた賢治は振る舞われたビールですぐに眠ってしまう。目覚めた賢治が直子の部屋に向かうと、直子から黒
いアルバムを手にとって見るよう促される。直子が東京で生活していた頃の写真だった。直子が賢治を追って東京に出て来て、二人が再び体を重ねた日々が記録されていた。直子は、富士山の火口を大写しにしたポスターの前の二人の写真が一番気に入っているという。賢治が飲んで荒れた日に撮影した一枚だった。二人は海のそばにある直子の新居に向かう。テレビを運び入れ、賢治が帰ろうとすると、ソファに座る直子が隣に座るように求める。賢治が座ろうとしないので直子は何度もソファを叩いて座らせる。直子が賢治に恐いのか尋ねると、賢治は恐くないと答える。賢治は立ち上がって帰ろうとすると、直子が賢治に追い縋り、今晩だけ昔を思い出そうと誘う。


いとこであり、なおかつ擬似的な兄妹の関係にある賢治と直子の二人が、タブーを感じながら、それゆえ余計に激しく性愛に溺れた日々があり、その関係を終わらせていた。その状況を富士山の活動(活動→休止→活動)に擬えている。
血のつながりが賢治にタブーの感覚を生む一方、直子に恥ずかしさの感覚をなくしている。それが二人に別の刺激を求めさせることになる。
子供を持ちたいという直子の結婚の動機を賢治は「不純」だという。二人が愛を動機に結婚しようとするとき、二人同士の結婚以外は全て不純なものとなる。タブーの意識を消し去るためには「身体の気持ち」に素直にならなければならない。
二人のセックスが良い。日本映画のセックス描写は、むしろカットすべきとしか思えないほどひどいものばかりだ。この作品ではしっかり描写されている。食事と同様、なくてはならないものとしてセックスが立ち現れている。賢治が料理して提供する食事はもとより、ラーメン店も中華屋でも、二人が食事をするシーンが良い。そしてセックスや食事と併行する会話が良い。だからこそ、セックスが生きてくる。