可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 SHIMURAbros個展『Evacuation』

展覧会 SHIMURAbros個展『Evacuation』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2020年3月7日~28日。

SHIMURAbrosの映像作品《Evacuation》(2019)を中心とした展観。映像作品《Reflections》(2014)、立体作品の《Trace-SKY-Floating Clouds 11(Ed.1/2))》(2018)と《Trace-ROAD-Harajuku》(2019)も合わせて展示されている。

《Evacuation》(2019)は、カリブ海に浮かぶキュラソー島の港、海岸、街並みなどを映し出しながら、ユダヤ人男性の「声」により徐々に物語が展開していく(20分45秒)。1939年夏、ナチスが迫るポーランドから亡命することを勧められていたが、妻が身重であったために決断できずにいた。逃避行の過程で娘が生まれ、敬愛するロシア人作家チェーホフに因み「マーシャ」と名付ける。その後ナチスに捕まり、男性は妻子と離ればなれにされてしまう。辛うじて難を逃れた妻子はリトアニアにたどり着き、ビザのいらないオランダ領「キュラソー島」への亡命を試みる。そのとき駆け込んだの日本領事館で、領事代理の杉原千畝は100日間有効の通過ビザを発給する。

迫害を逃れるユダヤ人の物語。偶然が重なっていく物語自体に引き込まれるが、落ち着きのある声によるゆっくりとした展開と、キュラソー島の奴隷たちの音楽に起源を持つ太鼓の音が、観る者を物語の先へと駆り立てる。キュラソー島をめぐって展開した凄惨な歴史を知らないカリブ海の水底に、強制収容所の青と白の縞のシャツが揺れている様が映し出される。そのシャツと、画面に向かって配された、シャツと同じ柄の布を張ったビーチチェアは、強制収容所に消えた人々の魂の邂逅を表し、鑑賞者はその場を共有する。美術作品ならではの物語体験が可能である。