可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 リーラ・ショーブル個展『Subsequence Landscape』

展覧会『リーラ・ショーブル「Subsequence Landscape」』を鑑賞しての備忘録
KOTARO NUKAGAにて、2020年6月2日~7月4日。

アマゾンの自然をテーマにした写真シリーズ「Growing in the Dark」と映像作品《SignalⅡ》、北極の風景をテーマにした写真シリーズ「Noeth」から構成される、リーラ・ショーブルの個展。

地球環境の現状に強い危機感を持つ作者は、映像作品《SignalⅡ》において、地球から発されている救難メッセージを受け取ることのない世界の現状を、アマゾンのジャングルにおいてSOS救難信号を表す光が他の光に紛れてしまう様子で表現している。闇に花や葉が神々しく浮かび上がる「Growing in the Dark」と題された写真のシリーズは、オランダ黄金時代の漆黒の画面に植物などを表した静物画を彷彿とさせる。「ヴァニタス」とも称され、人生の空虚さを訴え、あるいは虚栄を諫めた絵画の形式に、環境問題を重ねたのだろう。もっとも、ヴァニタスが、室内のテーブル上の花瓶などに盛られた花を描き、周囲に様々なメッセージを籠めた物を置いているのに対して、「Growing in the Dark」シリーズでは、植物の姿だけが浮かび上がらされている。その意味では、同じオランダ黄金時代の絵画でも、ヨハネス・フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』のような肖像画に近しい。それは、植物のような人間以外の生命にも、地球環境問題のステークホルダー、否、当事者としての地位を付与しようという、作者のメッセージが籠められているからではないか。さらに進んで、《Growing in the Dark (surround)》に至っては、中心の暗闇を囲うように植物が配されている、謂わば「闇の肖像画」となっている。闇を知らずして、光の価値を知ることはないということか。
「Growing in the Dark」シリーズや《SignalⅡ》という闇のシリーズに対して、北極を舞台にした氷の白い世界が広がる写真シリーズ「Noeth」が眩しい。