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芸術鑑賞の備忘録

映画『マーティン・エデン』

映画『マーティン・エデン』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のイタリア・フランス・ドイツ合作映画。129分。
監督は、ピエトロ・マルチェッロ(Pietro Marcello)。
原作は、ジャック・ロンドン(Jack London)の小説『マーティン・イーデン(Martin Eden)』。
脚本は、マルリツィオ・ブラウッチ(Maurizio Braucci)とピエトロ・マルチェッロ(Pietro Marcello)。
撮影は、フランチェスコ・ディ・ジャコモとアレッサンドロ・アバーテ
編集は、アリーネ・エルベとファブリツィオ・フェデリコ
原題は、"Martin Eden"。

 

ナポリ出身のマルティン・エデン(Luca Marinelli)は貧しい家に生まれ育ち、小学校も終えずに11歳から船乗りをしている。詩に嗜好があり、船の上でもときに読み書きを行っていた。航海から戻り、地元で開かれたパーティーで、眉目秀麗なマルティンマルゲリータ(Denise Sardisco)からダンスに誘われる。二人はパーティーを抜けだし、誰もいない船にしけ込む。翌朝、船で一人寝ていたマルティンは、怒鳴り声を耳にして目を覚ます。か細い青年(Giustiniano Alpi)が警備員(Ciro Andolfo)に乱暴に連行されていた。義憤に駆られたマルティンは、青年を庇い、警備員を殴りつけて撃退する。青年はアルトゥーロ・オルシーニという裕福な家庭の子息だった。マルティンはアルトゥーロに感謝され、屋敷に招かれる。僕の両親は寛大なんだ。案内された部屋で地球儀や書籍に目を奪われていると、アルトゥーロの姉のエレナ(Jessica Cressy)がマルティンに興味を示し近寄って来た。バドラーレの詩に関心がある。Baudelaire? そう、ボドレール。片言のフランス語なら喋れんだ。サリュ! ジュマペール、マルティン。Tu t'appelles Martin? マルタンか、フランスっぽいな。姉弟と母マティールデ(Elisabetta Valgoi)とともに食卓を囲む。フォークを右手に持ちガツガツと食事をするマルティンに家族は引き気味。顔の傷はどうされたんです? チンピラ相手にちょっと。マティールデは警戒心を保ちつつも面白い方ねとそつなく対応する。食後にエレナがピアノを演奏する。マルティンはエレナが演奏をし終えないところで先走って拍手をしてしまう。エレナと二人切りになったマルティンが尋ねる。君らみたいになるにはどうすりゃいい? 学ぶことが必要よ。手渡された二冊の本を手にマルティンは、意気揚々と帰宅する。マルティンは姉ジューリア(Autilia Ranieri)とその夫ベルナルド・フィオーレ(Marco Leonardi)の家に間借りしていた。姉と再会の挨拶を交わす。食卓に着いていた姉の夫から、急に一人抜けたから明日仕事に来いと声をかけられる。用事があると断ると、家賃もろくに払わないくせに何様だと怒鳴られる。翌日、マルティンは骨董品店に向かい、店主(Giuseppe Iuliano)から10冊の古本を買い取る。マルティンはエレナの住む世界に近付こうと必死に学び始める。

 

貧しい青年マルティン・エデン(Luca Marinelli)が、富裕なオルシーニ家の令嬢エレナ(Jessica Cressy)との出会いをきっかけに、作家を目指す。
原作は、アメリカを舞台としたジャック・ロンドンの自伝的小説『マーティン・イーデン』。舞台をイタリアに移して映像化。
貧しい都市生活を送る人々の記録映像を随所に織り込み、マルティンの住む世界のリアリティを生み出している。とりわけ、何度か繰り返し挿入される少年と少女とが踊る姿は、マルティンとジューリア(Autilia Ranieri)との固い結びつきをよく表している。
ストライキを訴える社会主義者の集会のシーンが序盤と中盤とに挿入される。後の方の集会では、ラース・ブリセンデン(Carlo Cecchi)に促されてマルティンは壇上に上がり演説さえする。このときの模様が新聞に報じられたために、マルティン社会主義者であるとのイメージが付与される。マルティン自身は、ハーバート・スペンサーの著作に触れ、社会進化説の影響を受けている。人がこれまで奴隷でなかったことがあっただろうかとの諦念のもと、個人が自由を求めて変革しない限り、社会主義は現在の奴隷主を別の奴隷主へとすげ替えるに過ぎないとの諦観に達している。マルティンは変革を求めこそすれ、社会主義に与する者ではないのである。報道に接して、彼を社会主義者だと糾弾する上流階級の人々に向かい、自由競争を阻害しようとする支配者層の人たちこそ社会主義者ではないかと喝破する。