可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 福濱美志保個展

展覧会『画廊からの発言 新世代への視点 2023 福濱美志保展』を鑑賞しての備忘録
コバヤシ画廊にて、2023年7月24日~8月5日。

小さな人形を屋内外に配した場面を描いた《Cheek to Cheek》、《Wash My Wounds》、《Around the Clock》、《Heaven knows》、《Daylight》の5点(いずれも652mm×910mm)を中心とした、福濱美志保の個展。事務室に6点の小品が展示されている。

《Daylight》には、闇の中に置かれたガラスの家の形のオブジェと、それを取り巻くところどころ光を放つ針金のような線が描かれている。"daylight"が日光を表わすにせよ日中を表わすにせよ、電気による光と周囲の闇とは、反転した世界を描き出す。

《Around the Clock》は、地面に置かれた白いベッドの人形と、そこに腰を下ろす女性の人形を描く。プラスティックな陶器か、白い人形に着彩はない。ワンピースを身につけ、足を閉じて膝の上に手を置いている。ベッドの周囲は草や砂利が埋め尽くしている。ある朝、目を覚ますと、グレゴール・ザムザが虫になっていたように、鑑賞者は、白い人形の女性となって目覚めることになる。作家は、ミクロの世界から自らを見詰め返すよう迫るのだ。

《Cheek to Cheek》には木の枝に腰掛ける白い女性の人形が描かれる。《Around the Clock》と同じ人形だろう。彼女の腰掛ける枝の表皮、傍らの小さな草の葉の微細な虫食い跡まで丁寧に描き込まれている。腰掛けているように見えるが、あるいは彼女は90度倒れて空を眺めているのかもしれない。違う角度から物事を眺めるよう訴える。

《Wash My Wounds》にも《Cheek to Cheek》や《Around the Clock》と同じ女性の人形が描かれる。白いソファに腰を下ろし、目に前に生える草と向き合っている。《Cheek to Cheek》や《Around the Clock》が草や砂利に周囲を埋め尽くしていたのと異なり、《Wash My Wounds》の画面は向かい合う女性と草の他、ほとんどが闇に包まれている。何かの影になった、ほとんどの草が抜かれた地面らしい。眼前の存在に向き合うことの意味を訴える。物言わぬ存在は、自己の鏡である。

《Heaven knows》は室内の柱の陰に立つ少女の人形を描く。自己とは、人形ではなく、人形を俯瞰する存在である。「あくがる」存在こそ自己である。「あくがる」自己は神をも生み出す。《Around the Clock》とは逆に、マクロの世界から自らを見詰めさせるのだ。