展覧会『みさかほ穂個展「あなたをみている」』を鑑賞しての備忘録
新宿眼科画廊〔スペースS〕にて、2021年10月1日~6日。
女性の裸体をモティーフとしたドローイング作品27点で構成される、みさかほ穂の個展。
臀部を突き出してやや前屈みの姿勢で顔を左に向けていたり、立て膝の姿勢で右腕で乳房を抱えるようにして上半身を捻っていたり、腰を降ろした姿勢から背後に両手をついて腰を浮かしてみたりと、同一キャラクターのショート・ヘアの女性を1枚ずつ異なる姿勢で、肥痩のある黒い描線の輪郭のみを用いて表す。いずれの作品も、豊かに盛り上がる半球型の乳房、くびれた腰、豊かな臀部や太腿によって女性のしなやかな肉体を味わわせる。作品によっては片腕あるいは片脚、または膝から先の足の描写が省略することで見せるべき部位を強調し、反らせた足の指や手の指によってエロティックな効果を高める。表されたポーズは人間が取ることが不可能なものではないが、デフォルメされた身体部位に加え、とりわけ切断と解することも可能な省略の表現によって、女性像はハンス・ベルメールに連なる人形のイメージを喚起させる。女性の身体をオブジェとして扱うようなベルメールの球体関節人形においては、「割れ目」(=女性器)の表現が伴うのに対し、一連のドローイングに表された女性には、性器を表す「切れ込み」は描きこまれておらず、「空白」となっている。ところで、女性キャラクターを特徴づけているのは、目の表現である。亀ヶ岡遺跡出土の遮光器土偶のように顔に対して極端に比率の高い目ではないが、一本の線が入った表現として共通し、なおかつ白い画面に敢えて白い修正液(?)で塗り潰すことで強調されている。ひょっとしたら、この目こそ「割れ目」(=女性器)ではないだろうか。マルセル・デュシャンの《遺作》においては、扉の穿たれた穴から裸体の女性の広げられた脚の付け根を覗くことができる。それに対して、「あなたをみている」シリーズの女性には「定位置」に陰裂表現を与えないことで、鑑賞者から見る機会を奪っている。のみならず、女性の目に「割れ目」(=女性器)を表すことで、「修正」され「塗り潰された」ヴァギナが鑑賞者を見るように主客が反転されているのだ。実際、展示室では、ショート・ヘアの女性が、鑑賞者の四方をぐるりと取り囲んで、彼女の「目」=「割れ目」が「あなたをみている」。鑑賞者は品定めするつもりが、品定めされているのである。