展覧会『武田龍「鉱夫の霧」』を鑑賞しての備忘録
KOSAKU KANECHIKA(京橋)にて、2026年7月31日~9月19日。
植物や道具類など具体的なモティーフを表わしているようでありながら掴み所が無く、原初的な禍々しさの籠る油彩画、木炭の「Cavern」シリーズ、陶器の「Vein」シリーズで構成される、武田龍の個展。
《diaphragm/pupa/snake/dock/tomb》(1168mm×728mm)は、棚のように仕切られた赤味のある茶色の薄暗い闇に、水色で模糊としたイメージが重ねられた作品。画題に列挙された、隔壁、蛹、蛇、造船所、墓を意味する英単語に相当するイメージを読み取ることは不可能ではない。隔壁が明確に認められる他、下部の区画の中に蛹を、右端の縦の水色の線に蛇を、左の紡錘状の形に船底の形を、土で埋められたイメージに墓を、認めることができなくはない。だが、むしろ、造船所の誕生、墓の死、蛇の再生という、生‐死‐生という生命の循環の過程における、蛹の内部で起こり得るような変容をこそ、表現しているのかもしれない。
《axe/trebuchet/lotus》(1168mm×910mm)には、茶色の上にクリーム色を重ねて、画面下に斧、左に投石機、蓮の実が表わされていると思しい。斧が象徴する現世の苦しみを、蓮により忘却し、現実逃避するといった、《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも[The Bride Stripped Bare by Her Bachelors, Even]》のモティーフに対するような解釈が可能かもしれない。
《silo/avena》(608mm×913mm)は、藍色の上から横方向に刷いた黄色により表現した藁の上に、実や種のようなもの、穀類らしきものが描かれた作品。弧とその内側を埋める線、茎と葉の線などが素早く簡素に表現される。
《device/tabula/goblet/bollard》(896mm×1457mm)には朱色の画面に、矩形の下に2つの台形の短い辺を重ねた黒い壺のようなものが描かれる。「壺」の口縁と裾には朱で模様が描き込まれる。朱の字の右側にはv字の模様が2つほど描き込まれている。窯で焼成中か、洞穴で炎を焚いて儀式をしている最中か。
《bellows/pulley/canopy》(805mm×1165mm)は、藍色の画面に淡いレモン色を塗り、さらに藍色で覆われる。弧を描く荒々しい筆致は空気を送り込む鞴なのか。もやもやとした形は炎なのか。左側に滑車の形だけは摑めるが、後は判然としない。動力、火勢といった躍動する力自体を表わしたようである。
《queen/king》(532mm×530mm)には、黒い画面に黄土色、紫などで2体のこけしらしきものが表わされる。赤茶色をX字状に重ねて装飾した矩形の上に黄土色の楕円が乗る左と、黄土色の連続する輪で飾った矩形を重ねた上に紫の楕円が乗る右との2つの「こけし」が並ぶ。2体の頭部は接着する。また、台座を共有していることから、イサム・ノグチの《こけし》を連想させる。
《capsella/fault》(275mm×276mm)の朱の画面の右側にはナズナらしき植物が描かれる。右下から茎が斜めに突き出し、葉を伸ばし、山吹色の花を咲かせる。「ナズナ」は左側に
近付こうとしている。そこには何かがあるようだが得体が知れない。
木炭によるドローイング「Cavern」シリーズは、柱など建築物や彫像のようなイメージが闇に浮かび上がる。洞窟というより神殿の雰囲気がある。
黒っぽい陶器の「Vein」シリーズは、いずれも建造物の断片のようでありながら、内臓など生体を連想させる形が挿入され、何かが蠢くようである。
確かに感じられる生気、それに対する畏敬を具現化するような試みであろうか。