映画『ブルーバック あの海を見ていた』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のオーストラリア映画。
102分。
監督は、ロバート・コノリー(Robert Connolly)。
原作は、ティム・ウィントン(Tim Winton)の小説『ブルーバック(Blueback)』。
脚本は、ロバート・コノリー(Robert Connolly)とティム・ウィントン(Tim Winton)。
撮影は、アンドリュー・コミス(Andrew Commis)とリック・リフィシ(Rick Rifici)。
美術は、クレイトン・ジョーンシー(Clayton Jauncey)。
衣装は、リエン・シー・レオン(Lien See Leong)。
編集は、ニック・メイヤーズ(Nick Meyers)。
音楽は、ナイジェル・ウェストレイク(Nigel Westlake)。
原題は、"Blueback"。
オーストラリア。スキューバを装着したアビー(Mia Wasikowska)が魚の群れやマンタやカメに遭遇しながら海の中を泳いでいる。海底に見えてきた珊瑚礁はどれも白化していた。アビーが1部を切り取りカップに入れると、水面に浮上して船に戻る。
甲板でスキューバを外していると、ギトゥンドゥ(Albert Mwangi)がやって来る。随分早起きですね、教授。規定違反では。あとはよろしく、ギトゥンドゥ。スキューバを任せてアビーは研究室へ上がる。水槽の魚たちに声をかけると、アビーは早速採取したサンゴをシャーレに入れ、顕微鏡で観察する。サンゴは褐虫藻を放出し骨格だけになっていた。再びアビーは水槽に向かう。残念なことを伝えなきゃならないわ。あなたたちの故郷が失われようとしてるんだけど、どうしていいか分からないの。
自室のベッドでアビーが眠っていると、ギトゥンドゥがやって来る。電話だよ。電話を受け取って甲板に出る。電話をかけたきたのはロングボートベイ病院の医師で、母ドーラ(Elizabeth Alexander)が脳卒中で入院したとの報告だった。意識はあり、容態は安定しているが、発話は難しいという。すぐに向かうと伝えるとともに居所を探して連絡してくれたことに感謝して電話を切った。アビー大丈夫? ギトゥンドゥに心配される。問題発生。母が脳卒中で倒れたの。だったら戻らないと。
アビーは自室で母と幼い自分の写真を取り出して眺める。甲板に出て海を眺めるうち、幼い日のことが思い返された。
幼いアビー(Ariel Donoghue)がベッドで寝ていると、母ドーラ(Radha Mitchell)が起こしに来る。起きなさい、お寝坊さん。夢を見てたの。おめでとう、アビー。ドーラが布団を剥がし、アビーを起き上がらせる。今日は何の日? 私の誕生日? 8歳ね。この日を待ってたの。
ダイヴィングスーツを着たドーラが浜辺に降りていく。来年にしない? アビーが母の後を追う。
ドーラがアビーを乗せたボートを走らせた。ドーラは興奮して歓声を上げる。
ドーラがボートを停めると、アビーにシュノーケルを渡す。ここで潜るのよ。無理、深すぎるもん。大したことないわ。もう大きくなったし、1歳半から魚みたいに泳いできたじゃない。母親は結婚指輪を外すと海に落とすと、娘に海底に取りに行かせる。鎖に沿って真っ直ぐ降りるの。アビーは潜って行く。白い砂の海底に目を凝らし、母の指輪を摑むと、母のボートに戻る。あったよ。上がりなさい、誇らしいわ。ドーラは大喜びする。深く潜れるって分かったでしょ。うん。見てもらいたい物があるの。
後日、ドーラはロバーズヘッドと呼ばれる場所にアビーをボートで連れて行く。
アビー(Mia Wasikowska)はギトゥンドゥ(Albert Mwangi)の船を使って海洋調査に取り組んでいる。サンゴ礁の白化が深刻だった。ある早朝、故郷西オーストラリアのロングボートベイ病院から連絡があった。母ドーラ(Elizabeth Alexander)が脳卒中で倒れ、意識はあるものの言語機能に障害があるという。アビーはすぐさま故郷に戻る。空港まで迎えに来てくれた幼馴染みのブリッグス(Clarence Ryan)によれば、ドーラが脳卒中で倒れるのは2度目で、覚悟した方がいいと告げられた。アビーの脳裡に母との日々が次々と蘇る。
8歳になったアビー(Ariel Donoghue)を母ドーラ(Radha Mitchell)はシュノーケリングに連れ出した。1歳半から海で泳がせている娘の潜水能力を確認したドーラは、アビーを湾内で最深のロバーズヘッドに連れて行く。母とアワビを獲っていたアビーは巨大な魚にアワビを持って行かれ驚き慌ててボートに上がる。ドーラはサメではなくグローパーという魚で問題無いと教える。改めて海に潜ると、アビーはアワビをグローパーに与え、軽く手で触れてみる。すっかりグローパーを気に入ったアビーはブルーバックと名付ける。ドーラはブルーバックを守るためには、存在を秘密にしておくことだと言う。湾内では開発業者のコステロ(Erik Thomson)の傘下の漁業集団が底引き網漁や水中銃を用いた違法操業を繰り返していた。ドーラはロングボートベイの海を守るために奮闘していた。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
アビーは海洋研究者。アビーをその道に進ませたのは、母ドーラが開発や乱獲から地元ロングボートベイの海を守るために奮闘してきたからだ。だが、ロングボートベイの保護に傾注すべきだとするドーラに対し、海洋一般を守るためにできることがあるはずだと故郷を離れたアビーとの関係は疎遠になってしまった。
物怖じせずに突き進むドーラと、そんな母に対してやや及び腰になるアビー(思春期はIlsa Foggが演じる)。フェミニズムにおける波(第1波、第2波、第3波、第4波)のような、目標は共有しつつ、その理念や実現手段などに差異があることのメタファーにもなっている。アビーが幼い頃に父が真珠獲りの最中に既に亡くなっており、またアビーにとって父親代わりだったマッカ(Eric Bana)もいなくなってしまい、ドーラとアビーのシスターフッドの物語になっている点も、フェミニズムを連想させる所以であろう。