可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山中雪乃個展『POSE』

展覧会『山中雪乃「POSE」』を鑑賞しての備忘録
DIESEL ART GALLERYにて、2023年12月2日~2024年1月16日。

女性の肖像を描いた絵画11点と立体作品1点とで構成される、山中雪乃の個展。

腰を降ろした女性の胸から太腿を捉えた《sunlight》(910mm×1167mm)や、坐る女性の後ろ姿を捉えた《long hair》(606mm×500mm)を除き、絵画には女性の顔が描かれている。
《gate》(1620mm×1303mm)は、紫味のある淡い灰色を背景に、背景と同系色の赤褐色などで描いた女性の肖像画。中央やや左寄りに頂点のある、上に凸の二次関数のグラフのようなシルエットを成す。左肩に頬を付けるように首を回転させ、長い爪(付け爪?)の右手で顔の右側を覆う。中指と薬指との間から右目を覗かせながら正面を見据えている。丁寧に描き込まれた目・鼻・口に対して、長い髪は恰も溶け出すように絵具の垂れで表される。右腕と左腕とに挟まれた首元は闇に沈み、右手の指で右目を囲む仕草ととともに僅かに謎めいて見せる。印象的なのは、額から上、頭部中央部分の白い箇所である。ハイライトの表現などではなく、敢て広く塗り残されている。
《gate》に表わされた特徴は、右手で右顔を隠す、表題作の《pose》(737mm×606mm)を始め、両手で顔を支えるような《weight》(1455mm×1120mm)、頭を下げ見上げる目つきが印象的な顔に両手を添えた《in short》(652mm×530mm)、右手で顎を、左手で左頬に触れる《orientations》(2773mm×1818mm)、右肩に倒した顔に両手を添えた最大画面(2枚組)の《window》(2273mm×3110mm)、弦楽器を爪弾くような仕草の《strum》(2273mm×1818mm)、目を瞑った顔に両手を持ち上げる《hide》(910mm×1107mm)にも見られる。
まずは、長い爪(あるいは付け爪)の手で顔に触れ、あるいは覆う仕草である。繊細に描かれた目・鼻・口が作る表情に目を向ける効果線のように機能している。長い爪はその効果を増幅させるものとして機能している。2つ目に、髪を中心に絵具が滲み、垂れるように配されている点である。像主の仮象性や刹那的な印象を生んでいる。最後に、頭部などに大きく取られた空白である。画布の生地ではなく地塗りの白であるが、飽くまでも絵画に過ぎないことを露悪的に訴える。それこそポスト・トゥルース時代にふさわしい肖像画なのかもしれない。同時に、「空白」は、性的なニュアンスを減じるのに効果を上げているようにも見える。すなわち、見紛うこと無き女性像において、男性的視線、もとい好色な視線を跳ね返す楯のように機能しているようだ。