可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 佐藤忠個展『見えないもの、つかめないもの』

展覧会『佐藤忠展「見えないもの、つかめないもの」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋 本館6階 美術画廊Xにて、2024年1月10日~29日。

ステンレス製の大小の輪を繋いで造型した女性像を中心とする、佐藤忠の個展。

《垂直の雨》では、ステンレススティール製の大きさの異なる輪を接着することで女性の胸像を形作り、さらに降雨を表わすステンレススティール製の棒を下に繋げることで、女性の全身像として提示されている。シルエットは(頭巾を被り、あるいは頭から)マントを身に付けた女性が胸の前で手を合せる姿である。絶妙な輪の立体的な組み合わせにより、とりわけ鼻、顔(顎)のラインなどの嫋やかさによって女性であることが分かる。絶妙である。合せた掌は上に向かって開かれているため、雨水を受けようとしていることが分かる。腕の下辺りからは垂直の線により、女性の着衣とともに、僅かに小さな輪が散らされることで雨滴(の降下)が表現されている。女性の胸像部の輪のうち8つにニトリルゴムスポンジ製の赤い輪が嵌め込まれている。時節柄、光琳菊のように単純化された椿にも見えるが、慈雨を寿ぐ慶びの表現であろう。なお、《垂直の雨》は台座に設置されているが、同じ主題を扱った女性像《金色の雨》は壁に掛けて展示されている。《金色の雨》の腕から下の辺りは金箔が貼られ、長さの異なる棒が中空に浮くことで降雨の性格が強調されている。
《水平の風》は、ステンレススティール製の大きさの異なる輪を接着して作った女性の立像。頭髪を後ろで団子に束ね、心持ち顎を上げて正面を見据えた女性は、胸を反らせている。女性の顔から首、あるいは胸などでは柔らかい線(面)が適格に表現されている。左裾が左側(作品に正対すると右側)に向かって広がっていることで、風を受けていることが強調される。とりわけ輪で構成されていることが通風の表現に効果を上げている。(本作のみならず他の作品でも見られる)女性の身体の垂直軸に対する風の水平性を表現しようとの狙いは、受付側から奥に向かって延びる展示室の中央に置かれることで、吹き抜ける風を呼び込んで成功している。
《ふたつの感情》は瓜二つのショートカットの女性2人が俯いて背中合わせに立っている姿をステンレススティール製の大小の輪と棒とで表現した作品。《We know》では、やはり似た姿のショートカットの女性が向き合って右手を重ね合わせようとしている。後者では、ニトリルゴムスポンジ製の赤い輪が両者に見られること、またスカートのように広がった棒が互いに交差していることで、意思が通じていることが強調され、《ふたつの感情》と対照される。