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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 大野綾子個展『「みどりは草の色カマキリの色」by KAYOKO YUKI』

展覧会『大野綾子「みどりは草の色カマキリの色」by KAYOKO YUKI』を鑑賞しての備忘録
CADAN有楽町にて、2022年4月5日~24日。

主に深岩石で制作された彫刻4点で構成される、大野綾子の個展。

《みどりは草の色カマキリの色 a》(1950mm×660mm×1575mm)は、中心角90度の円弧の一方の半径を地に接するようにして、上部からWに近い形を切り出した波型の面を持つ、単純化された草叢の書割のような青みがかった深岩石の彫刻と、その左側にある一番高い頂部の中央から、ステンレス丸棒が右方向に大きな弧を描いてに伸び、その先に取り付けられ宙に浮いている青みがかった深岩石のカマキリとから成る。「草叢」の波状の上端は右側に向かって波頭が低くなっており、左側の波頭の右上に向かうカーヴと相俟って、ステンレス丸棒のアーチへと視線を誘導する。石に開いた数々の穴は、石に軽い印象を付与するだけでなく、火山から噴出した来歴を伝え、カマキリが草叢から飛び上がるイメージの創出に一役買っている。カマキリは背がステンレスのアーチを受けるように湾曲するとともに、カマキリの逆三角形の顔の顎と2本のカマとが下方向への動きを強調する。カマキリは飛びかかるのではなく待ち伏せして捕食するのであろうが、カマを振り下ろす俊敏さが生まれる。ところが、ステンレス丸棒が揺らされるとき、その先で弾むカマキリは、一瞬にして道化師を装い、死神としての姿をカムフラージュするのである。
《みどりは草の色カマキリの色 b》(1950mm×1400mm×2000mm)は、6つの波頭を持つ草叢の書割のようなツル目の入れられた深岩石の彫刻と、その左端の「波間」からステンレス丸棒が右方向に大きくアーチを描いていて、その尖らされたステンレス丸棒の先に、ツル目の入れられた深岩石の上の台座に置かれているマットな赤茶色の砂岩でできたカマキリの彫刻とで構成される。ステンレス丸棒のアーチはカマキリの飛翔の効果線として機能し、カマキリが後傾姿勢なのが着地を決めた瞬間であることを示唆する。「草叢」の波頭の高さが揃っている点と、色味と形から埴輪の男子(あるいは武人)を想起させるカマキリの太い両脚が開いて台座に自立し、なおかつカマを身体の左右に広げてみせている点とから、《みどりは草の色カマキリの色 a》と比較して、安定感がある。
《みどりは草の色カマキリの色 b》の「草叢」が会場入口脇にある台の上に設置され、草地の現れを告げる。ギャラリーの床はところどころに茂みや灌木《みどりは草の色カマキリの色 c》(305mm×365mm×740mm)の草原となり、奥の壁面に掲げられた《植物と花(木の周辺)》(180mm×50mm×505mm)が草原の限界となる木立を立ち上げる。深岩石と砂岩とステンレスの無機質で高層ビルの立ち並ぶ周囲に接続しつつ、閉鎖空間に緑の広がりを召喚する石庭が作庭されている。
深岩石が火山から噴出する火山灰で形成されていること、カマキリが草叢から飛び出すこと、カマキリのいる草地(のインスタレーション)が都会に姿を表わすこと。ある環境から別の環境への跳躍のアナロジーは、みどりを踏切板に草からカマキリへと視点を動かす詩的発想で予め示されていた。