可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『TERATOTERA祭り2018』

展覧会『TERATOTERA祭り2018』を鑑賞しての備忘録

武蔵野芸能劇場など三鷹駅周辺の7カ所で2018年11月16日~18日。

 

三鷹駅周辺の施設を会場に行われた展覧会。
「Walls わたしたちを隔てるもの」をテーマに、インスタレーションやパフォーマンス、映像作品の上映が行われた。

キュンチョメ《完璧なドーナツをつくる》について

 

三鷹駅北口のスペースエルベ(サンローゼ武蔵野2階)を会場に上映された映像作品+α。

キュンチョメ(ホンマエリとナブチの2人のアーティストによるユニット)は、アメリカ(在沖縄アメリカ軍基地)のドーナツと、沖縄のサーターアンダギーをそれぞれ作り、ドーナツの穴をサーターアンダギーでふさいだ「完璧なドーナツ」を作るプロジェクトを構想する。米軍基地のフェンスの内外でドーナツとサーターアンダギーを作り、2つを組み合わせようというのだ。沖縄の様々な立場の人に「完璧なドーナツ」についての聞き取り調査を行いつつ、プロジェクト実現までの過程を追う。


会場では、来場者に「投票用紙」が配布され、「完璧なドーナツ」を作ることについて「賛成」か「反対」かを投票箱に投じるよう依頼される。

 

作品に登場する沖縄の人たちは、一人一人自分なりの考えや気持ちを自分なりの言葉で率直に語っていて魅力的だ。

日本への返還頃まではアメリカ軍は沖縄の人々にとって今よりはるかに身近だったそうで、兵士の顔が分かるほど低空をヘリが飛んでいた少年時代をなつかしむ男性の話が興味深かった。信仰の場であり「再生」の場でもある洞穴の魅力を語る宮司は、状況によって人の立場は入れ替わってしまうことを穏やかに説いていた。数十年もの長きにわたり沖縄で生きる宣教師は沖縄の人たちが優しすぎてキリスト教徒的であると皮肉と諧謔とを綯い交ぜにして熱く語っていた。
彼らや彼女らの言葉にはそれまでの人生がぴったりと張り付いていて、いずれの意見に対しても共感せざるを得ない。映像を見れば見るほど、「投票=賛否の判断」が難しくなっていく。そして、「完璧なドーナツ」作りを結構なことだと、簡単に「賛成」と思ってしまった自分が、沖縄の米軍基地問題をいかに他人事と捉えてしまっているかに気づかされるのだ。

映像作品自体が興味深く見応えがあるが、投票制度によって、少しでも沖縄の基地問題を考えさせるしかけを用意したのがこの作品の肝である。とりわけ、簡単に賛成とも反対とも言いづらいと吐露する姿を見るとき、問題解決の難しさ、沖縄の人たちの複雑な状況を思わざるを得ない。

 

沖縄の人にとってサーターアンダギーはもともと祝いなど特別な場に供されるものであったらしい。現在では日常的なおやつとして大きさも小ぶりだが、以前は結婚式の引き出物では大きなサーターアンダギーが必ず配られたそうだ。サーターアンダギーの起源のようなものをより深く知りたくなったし、アメリカ人にとってもドーナツに何か謂れがあるのか気になった。

 

サーターアンダギーがうまく割れる日々を思う。