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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ムンク展 共鳴する魂の叫び』

展覧会『ムンク展 共鳴する魂の叫び』を鑑賞しての備忘録
東京都美術館にて2018年10月27日~2019年1月20日

オスロ市立ムンク美術館所蔵作品を中心とするエドヴァルド・ムンクの回顧展。同館所蔵の油彩・テンペラ画の≪叫び≫は日本初出展。

 

展示は「1:ムンクとは誰か」「2:家族 死と喪失」「3:夏の夜 孤独と憂鬱」(以上ロビー階)「4:魂の叫び 不安と絶望」「5:接吻、吸血鬼、マドンナ」「6:男と女 愛、嫉妬、別れ」(以上1階)「7:肖像画」「8:躍動する風景」「9:画家の晩年」(以上2階)の9つから構成。

 

「1:ムンクとは誰か」
漆黒の画面に頭部が浮き上がり、画面下に腕の白骨が描き込まれた《自画像》(リトグラフ、1895年)で静かな幕開けと思いきや、白い裸身を曝し、顔が赤く塗られ、大きな黒い影を背後に描き込んだ《地獄の自画像》(油彩、カンヴァス、1903年)がすぐ後に控えている。2作品の目の表現の違いに要注目。その他に自画像4点と写真6点。

 

「2:家族 死と喪失」
《臨終の床》(1896年、リトグラフ)では、横たわる死者をシーツの白で、取り囲む人物を黒い群像として対照的に描き出すとともに、両者の余白に水平線を描き込み、そこに顔のようなものが浮かび上がらせている。
《病める子Ⅰ》(1896年、リトグラフ)では少女の横顔が描き出される。プロフィールの持つ象徴性や記念碑的性格は、死へのつながりを連想させるのか。
ストリンドベリマラルメの肖像など「7:肖像画」のセクションに入りそうな作品もいくつか展示されている。《グラン・カフェのヘンリック・イプセン》(1902年、リトグラフ)もその1つ。画面右側の4分の1が店外の街を行き交う人々を描き、残りの部分にイプセンを正面から捉えている。黒い背景に5つの頂点を持つように浮かび上がる白い顔は、闇夜に浮かんだ星のよう。全16点(油彩、リトグラフエッチングなど)を紹介。

 

「3:夏の夜 孤独と憂鬱」
ムンクの作品で特徴的な満月とその水面の反射が描き込まれた作品が数点紹介されている。この月の表現は女性(月経)、男性(形:男根)、キリスト教(形:十字)などと解釈されているそう。《夏の夜、人魚》(1893年、油彩、カンヴァス)でも水面に映り込む月光が描き込まれているが、中心となるはずの中央奥の人魚の手前に画面を半分ほども覆う色とりどりの岩(石)の存在が気になる。《夏の夜、渚のインゲル》(1889年、油彩、カンヴァス)も同様に多様な岩が写実的に描かれているし、《メランコリー》(1894-96年、油彩、カンヴァス)では海岸に溶け込むように描かれているが、岩を描いているのかもしれない。
白い服をまとい背を向ける女性と赤い服を着て正面を向く女性とが描かれた《赤と白》(1899-1900年、油彩、カンヴァス)は、紫色の絵具が横方向に何カ所か描き入れられているのが気になる。全17点(油彩、木版など)を紹介。

 

「4:魂の叫び 不安と絶望」
本展のハイライト。《叫び》(1910年?、テンペラ・油彩、厚紙)では、赤い空、フィヨルドの青い水面と緑の岬が、両手を耳に当てて口を開く人物が捻れるのに引きずられるように捻れている。突堤(橋?)やその奥にいる影のように描かれる人物が直線的なので、ぐにゃりとうねる感じが強調されている。他に《絶望》、《不安》、《赤い蔦》を展示。

 

「5:接吻、吸血鬼、マドンナ」
《接吻》(1897年、油彩、カンヴァス)をはじめとする「接吻」をてーまにした作品は男女の顔が一体化しているのが印象的。《吸血鬼》(1916-18年、油彩、カンヴァス)をはじめとする「吸血鬼」を描いた作品も、血を介して男女が一つになる作品群と言える。《マドンナ》(1895/1902年、リトグラフ)ではマドンナを囲む枠の部分に精子を描き込んでいるが、マドンナ=聖母マリアであるなら、接吻や吸血鬼における一体化の志向はかなえられることがないことになる。油彩、木版、リトグラフに加え、版木や石版も含めた16点を紹介。

 

「6:男と女 愛、嫉妬、別れ」
《生命のダンス》(1925年、油彩、カンヴァス)は夜の海岸でダンスをする男女を描く。画面中央の主役とも言える男女よりも右手の目をランランとさせて白い服の女性に抱きつく男に目を奪われる。《芸術家とモデル》(1919-21年、油彩、カンヴァス)のでは正面を向くモデルが手前に迫ってくる印象が強い。芸術家もモデルのすぐ後ろに立ち正面を向いている。この手のタイトルの作品では芸術家がモデルとキャンバスに向かって制作をしているのが一般的と思われるので印象に残る。《灰》(1925年、油彩、カンヴァス)は男女ともに頭を抱えているが、女性に「やってしまった」感がよりよく表されている。神クピドと王女プシュケの物語を描いた《クピドとプシュケ》(1907年、油彩、カンヴァス)では、クピドを赤や緑の縦の線で大胆に塗り込んでいる。油彩作品を中心に全14点を展示。

 

「7:肖像画
フリードリヒ・ニーチェ》(1906年、油彩・テンペラ、カンヴァス)では、ニーチェの紺色の服と背景のあおく塗られた山が一体感をもって描かれている。背景の山の上に広がる黄色に輝く空を背景にした位置に頭を描くことで、ニーチェを顕彰するかのようだ。しかもその容貌は、背景の山よりも遙かに険しい急峻な山岳を思わせる。全6点を紹介。


「8:躍動する風景」
《疾駆する馬》(1910-12年、油彩、カンヴァス)はそりを引いた馬が手前に向かって疾駆する様子を描いている。映画に見られる撮影手法を絵画に応用したそう。油彩作品全6点を展示。

 

「9:画家の晩年」
《自画像、時計とベッドの間》(1940-43年、油彩、カンヴァス)では、ムンクが柱時計と部度との間に直立する姿勢で自らを描き込んでいる。ムンクの作品に頻繁に登場する月光と水面への反映がムンク自身であることを伝えようとするかのよう。油彩作品全10点を紹介。