展覧会『水野里奈「みてもみきれない。」』を鑑賞しての備忘録
ミヅマアートギャラリーにて、2020年3月4日~28日。
水野里奈の絵画展。《入れ子状の建物》を中心に大画面の油彩を並べた展示室と、ドローイングを集めた小部屋との二部構成。
《入れ子状の建物》は、水墨山水画を思わせる岩や気のような流れと、トルコ絨毯のような植物や幾何学の文様、さらにはSFで描かれるような宇宙空間の星や光の放射など様々なモティーフが渾然となった作品。タイトルの「入れ子状」という言葉や壺らしきものの描き込みからすれば、「壺中の天」よろしく、多元宇宙を表した壮大なスケールの作品と言えそうだ。また、「建物」という言葉をタイトルに組み込みながら、建物の直接的な表現は意図的に避けられている。ひょっとしたら作者の中で、建物=建築は、空間=世界を仕切る欲望を象徴するものとして捉えられているのかもしれない。デスクトップのウィンドウのように、画面に現れる複数のフレームは、仕切り=建築を示すのだろう。他方、絵画を設置した壁面には、作者が気の流れを表すような渦を描き、右側に並べられた《渦》や《岩波》といった水墨画のような作品への連続が意図されている。流れ、連なっていく世界のうねりの中で、壁を作り閉ざそうとする動きを絵画に表したというより卑近な解釈も成り立つ。
黒のインクで描かれたドローイング作品では、テーブルや椅子のような家具、ネックレスのような装身具、カーテンのような室内装飾、絵画の額縁、花や茎や幹や枝といった植物などが、際限なく連なっていく。フルクサスの図形楽譜を読むかのように、軽やかで伸びやかな流れに身を攫われる感覚は、音楽の楽しみへと近接するようだ。のみならず白い画面に描かれたモティーフは、マットを飛び超えて白い額縁へ、さらには白い壁へと拡散していく。どこまでも「みてもみきれない」のだ。