可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『白髪一雄』

展覧会『白髪一雄』を鑑賞しての備忘録
東京オペラシティ アートギャラリーにて、2020年1月11日~3月22日。

「フット・ペインティング」で知られる白髪一雄の回顧展。

時代順に、第1章「知られざる初期作品」(絵画7点)、第2章「『具体』前夜:抽象からフット・ペインティングへ」(絵画6点)、第3章「『具体』への参加」(絵画4点と立体作品4点)、第4章「『水滸伝豪傑シリーズ』の誕生」(絵画15点)、第5章「スキージ・ペインティングと制作の変容」(絵画6点)、第6章「『具体』の解散と密教への傾倒」(絵画9点)、第7章「フット・ペインティングへの回帰と晩年の活動」(絵画8点)の7章で構成。最後に、展示室外の通路に沿って、「水彩・素描にみる形成期の模索と制作の裏側」と題したコーナーが設けられ、水彩・素描など約40点とノートや写真アルバム、印刷物などの資料が紹介されている。

 

1953年の作品である《流脈》・《脈モノクロームA》にスクイーズのような描線が見られ、「フット・ペインティング」を始めた1954年の《作品》には円や放射線を引き延ばすような絵筆の動きが見られる。
「フット・ペインティング」では、天井から吊るしたロープに捕まって、足を使って画面に絵具を塗り込めている。作者にとって、キャンヴァスという「零の空間」は「素晴らしい遊び場所」である。体全体を使った力強い表現を可能にするが、それよりも、勢いあまって動きを制御し損ねる結果、作者の意思を超えてなされる表現に可能性を見出したのだろうか。泥と格闘するパフォーマンス《泥に挑む》(1955)や「人間の精神は合理でも不合理でもない次元へと踏み込んだように思う」(『具体』誌第4号所収「個体の確立」)といった主張、さらには《照魔鏡》(1951)や《妖家具》(1952)、《妖草Ⅱ》(1952)といった初期作品のモチーフやタイトルからも、理性ではとらえられないものへの探求心がうかがわれる。
《色絵》(1966)は黒、赤紫、エメラルドグリーン、白によって回転の動きがスクイーズで描きこまれている。星の運行のような宇宙イメージさせる。
《白い作品》(1966)は淡いベージュ色のみでまとめられた作品。スクイーズによって表された微かな描線により画面に引き込まれる。《扶桑》(1986)も淡いベージュで統一されているが、絵具を厚く塗りつけた部分と地塗りの部分とによって、隆起や流れのような運動が強く感じられる。
資料として展示されている「作品計画帳」には、粘土を円筒状に練り上げて、内部に入り込んで立体的な造形をつくるというエスキースがあった。平面作品の「フット・ペインティング」を立体作品に移し替えるもの。
眼球や唇の形をしたバルーンを飛ばすことを計画していた(《アムステルダム国際園芸博覧会「フロリアーデ1972」のための変形バルーン案》)。