映画『ザ・スイッチ』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。102分。
監督は、クリストファー・ランドン(Christopher Landon)。
脚本は、マイケル・ケネディ(Michael Kennedy)とクリストファー・ランドン(Christopher Landon(。
撮影は、ローリー・ローズ(Laurie Rose)。
編集は、ベン・ボーデュアン(Ben Baudhuin)。
原題は、"Freaky"。
11日、水曜日の夜。ジニー(Kelly Lamor Wilson)の邸宅の前で2組のカップルが薪の焔を囲んでいる。エヴァン(Mitchell Hoog)が声を落として語る。奴はこの町を徘徊してる。幽霊みたいに人目に触れないで。思うがままに殺すんだ、毎年ね。ブリスフィールドの殺人鬼だよ、1977年から人々を怖がらせてる、ずっと今までね。どうせ老いぼれのシリアル・キラーだろ。アイザック(Nicholas Stargel)が茶々を入れる。フツーの白人が持ってるサディズムがヤバいんだって、歳は関係ない、とジニー。殺人鬼が90年代に子供を殺して、20年前、姿を消したってこと以外、都市伝説でしょ、とジニーはエヴァンに確かめるように言う。プロム帰りの子を殺すんじゃ無かった? とサンドラ(Emily Holder)。プロムじゃくて学祭。ブリスフィールドの殺人鬼は学祭シーズンのたんびに出てくるの。未成年者をアルコールとセックスから遠ざけるためよ。今年は如何なる悲劇が生まれるのであろうか。声色を変えて皆を笑わせたアイザックが突然、恋人のサンドラを押して怖がらせる。何してんの! 飲み物を服にこぼしてしまったサンドラはお冠。ソーダを取りに館の中へ。エヴァンがアイザックにサンドラを追うよう目配せする。アイザックが建物へ向かうと、エヴァンはジニーとキスを始める。アイザックは陳列ケースの中の頭蓋骨や骨董品に目を奪われる。何なんだ? ジェニーのお父さんってコレクターなのよ。「ラ・ドーラ」だって。アイザックはネーム・プレートが付いたケース入りの古い短刀を発見する。手伝う気はあるの? 飲み物を用意しているサンドラがアイザックに不満を言う。それを手伝う気はないかな。アイザックは建物を探索する。マスクが陳列されている棚の前を通ると、階段室のドアがある。螺旋階段を降りると、大理石の彫刻などが置かれた地下室で、アイザックはモンラッシェのワインを見つける。ラベルを読んでいると、物音が。思わずワインを落として割ってしまう。サンドラ、驚かすなよ。このワイン、高そうだな。おい、降りてきて片付ける手伝ってくれてもいいじゃないか。仮面を被った男(Vince Vaughn)がアイザックの頭を引きずり上げ、仰向けになったアイザックの口にワインのボトルを打ち込む、喉が変形するまで押し入れると、割れた瓶を首に刺す。サンドラがトイレに入っていると、ドアをノックする音がする。ちょっと待って。すると続けざまにノックする音がする。急かしても無駄よ。その後気配が無くなったのを不審に思ったサンドラがドアに近づくと、突然ドアを蹴破って仮面の男が入ってくる。悲鳴を上げるサンドラ。男は、腰を抜かし後ずさるサンドラの頭を摑むと便器に押しつけると、蓋を叩きつけて殺害する。ガレージではジニーが車のボンネットに上半身を寝かせ、エヴァンに後ろから腰を使わせていた。自分が逝くと、エヴァンを押しのける。待ってよ、俺はどうすりゃいいんだ。なかなか逝かないでしょ。私のアレは24時間営業のドライヴスルーじゃないの。あと3分もあればさ、さすがに気遣いがないんじゃ。男って気遣いがあるもんね。テニスコートを横切っていると、突然照明が点く。ジニーが振り返ってエヴァンを見ると、仮面の男がテニスラケットを折って、エヴァンの側頭部の両側から刺した。血を流し、崩れ落ちるエヴァン。悲鳴を上げ、逃げ出すジニー。建物に逃げ込むが、男は玄関を蹴破って侵入する。男は壁に飾られていた槍を投げつけるが、外れて壁に突き刺さる。ジニーはクローゼットの隠し扉の中に逃げ込んで男を遣り過ごす。男が去ったのを確認してクローゼットから出たジニーは、車の音で両親が戻ったことを知る。両親の元へ逃げ込もうとしたところ、男が現れ、ジニーを摑むと、壁に刺さった槍に突き刺す。男は声に導かれるように短剣「ラ・ドーラ」を発見する。車を停めてあったのを見た? ジニーの母(Jennifer Pierce Mathus)の問いかけに、いや、と答えるジニーの父(Dustin Lewis)。2人が玄関を開けると、待っていたのは壁に磔となった娘の遺体だった。
12日、木曜日の朝。時計のアラームを止めて、ミリー・ケスラー(Kathryn Newton)がベッドから起き上がる。居間に降りると、母コーラル(Katie Finneran)が朝食の準備をしている。あなたの好きなバナナ・パンケーキよ。皿を運んだコーラルは、テーブルにボストン大学の出願書類があるのに気が付き顔を曇らせる。姉シャーリーン(Dana Drori)は警察の制服に身を包んで姿を現す。明日は、アヌス劇場で『ウィキッド』ね。コーラルがミリーに確認する。アニスでしょ。学園祭なのに母娘で観劇するつもり? だって娘を危険から守らなきゃ。シャーリーンの電話に着信があり、緊急事態だと食事もそこそこに席を立つ。シャーリーンは皿を片付ける際、ゴミ箱にワインの空き瓶があることに気が付く。
ブリスフィールドヴァリー高校の冴えない女子生徒ミリー・ケスラー(Kathryn Newton)は、殺人鬼(Vince Vaughn)に襲われた際、兇器に用いられた短剣「ラ・ドーラ」の不思議な力によって、殺人鬼と精神が入れ替わってしまう。
Vince VaughnとKathryn Newtonとが精神の入れ替わりの前後(中年男性の殺人鬼と内気な女子高校生)をそれぞれがうまく演じ分け、ファンタスティックな設定を見応えのあるものにしている。
1年前の父親の死によって、ケスラー家の3人はそれぞれ問題を抱えている。コーラルはアルコールに依存するようになり、シャーリーンは仕事にのみ生きるようになり、ミリーは内向的になった。父親の死を残された家族がいかに乗り越えるかを、殺人鬼を描くホラー映画の体裁で描いている。
『ハッピー・デス・デイ』(2017)と続編『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019)を手がけたChristopher Landonは、本作においても、家族の死の克服という「ドラマ」と「コメディタッチ」によって、ホラー映画の裾野を広げるのに成功している。
原題は"Freaky"。「フリーキー」とせず、「ザ・スイッチ」とした邦題は、キャラクターの精神の入れ替わり(役割の交換)を強調するだけでなく、父親の死を乗り越えようとする家族の気持ちの「切り替え」もイメージさせて、良い。