可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『L.A.コールドケース』

映画『L.A.コールドケース』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のアメリカ・イギリス合作映画。
112分。
監督は、ブラッド・ファーマン(Brad Furman)。
原作は、ランドール・サリバン(Randall Sullivan)のノンフィクション"LAbyrinth"。
脚本は、クリスチャン・コントレラス(Christian Contreras)。
撮影は、モニカ・レンチェフスカ(Monika Lenczewska)。
美術は、クレイ・グリフィス(Clay A. Griffith)。
衣装は、デニス・ウィンゲイト(Denise Wingate)。
編集は、レオ・トロンベッタ(Leo Trombetta)。
音楽は、クリス・ハジアン(Chris Hajian)。
原題は、"City of Lies"。

 

1997年3月18日。カリフォルニア州ノース・ハリウッド。車載ラジオからニュースが流れている。ファンたちがラップ界の巨星ノトーリアス・B.I.G.に最後の別れを告げました。追悼式典はしめやかに行われましたが、葬列がブルックリンに向かうと、衝突が起こり、催涙スプレーも使われました。兇弾に斃れたラッパーの無言の帰郷は、激昂したファンと警官隊との小競り合いとなったのです。群衆は警官隊のバリケードに押し寄せ始めると、車の上に乗って踊るなど徐々に冷静さを失い、突然収拾不能となりました。警官隊はファンに解散を求めましたが、抵抗する者が現れました。当局は催涙スプレーで集団を解散させました。10人が逮捕されましたが、そのほとんどは治安紊乱が理由です。ブルックリンの人々は群衆の制圧に当たって過剰な暴力が行使されたと訴えています。残忍さと無神経さとが告発されています…。フランク・ライガ(Shea Whigham)がラジオから音楽へ切り替える。信号待ちをしていると、隣にヴァンが停まる。窓を閉めろよ、白い坊や。運転していた黒人男性(Amin Joseph)がライガに言い放つ。ライガは有象無象がと吐き捨てると、激昂したヴァンの運転手が車を停めろとライガに要求する。信号が変わったとたん、急発進したヴァンがライガの行く手を塞ぐ。ライガがヴァンを避けて車を走らせると、ヴァンが危険を顧みず猛スピードで車の間を縫って追ってくる。再び信号で2台が並んだところで銃声がする。ヴァンは車道からガソリンスタンドへと急発進すると駐車していた別の車にぶつかって停まる。ライガがヴァンの後を追い、ガソリンスタンドで停車する。ライガが銃を構えながら車を降りる。そこへ駆け付けた警官がライガに銃を捨てるよう要求する。ライガはバッジを示して自分が警官だと訴える。ヴァンの運転手は被弾して事切れていた。
刑事のラッセル・プール(Johnny Depp)が車で現場に向かう。
私は「ノトーリアス・B.I.G.」ことクリストファー・ウォレス(Jamal Woolard)が9日前に銃殺された現場から北東8マイル(13キロメートル)で発生したあおり運転事件の現場に呼ばれました。当初は2つの事件を結び付けませんでしたが、結び付けたときには、私は大切な全てを失っていました。あの日、あの街角で、迷宮への最初の扉が開いたのです。
テレビのドキュメンタリー番組。1991年、ロドニー・キングに暴行した4人の警官が無罪となり、ロサンゼルス暴動が発生。トゥパック・シャクールは苛立つ反抗的な世代に詩的な声を提供した。それを金に換えたのは、ロサンゼルスを拠点とするデス・ロウ・レコーズ。悪辣なシュグ・ナイトが牛耳っていた。東海岸ではメロディアスなラップでノトーリアス・B.I.G.が脚光を浴び、ニューヨークでバッド・ボーイ・レコーズを立ち上げた。生前、ノトーリアス・B.I.G.は、東海岸と西海岸の抗争はメディアが金になるからとでっちあげたもので、誰の死も望んでいないと吐露していた。ラスベガスでの銃撃事件でトゥパック・シャクールは4発の銃弾を撃ち込まれた。6ヶ月後、「ビギー・スモールズ」の射殺事件を警察は調査している。誰がノトーリアス・B.I.G.を殺したのか。ロサンゼルス市警は関与していたのか?
18年後。ロサンゼルス。2人のラッパーの殺害事件は未解決のままだった。新聞記者のダリウス・ジャクソン(Forest Whitaker)は「ビギー・スモールズ」射殺事件を担当した刑事ラッセル・プールの住まいを訪ねた。ドアは開いており、ノックしても反応がないため、ジャックは部屋に入る。壁にはクリストファー・ウォレス殺害事件に関連するメモや写真がびっしりと貼られ、捜査本部のような観を呈している。小さなテレビでは、録画した事件のドキュメンタリー番組が再生され、ラッセルが見入っていた。俺にできることはないか? 闖入者の声に驚くラッセル。ドアは開いてたし、ノックもしたぜ。ダリウス・ジャクソンだ。ノトーリアス・B.I.G.殺しの件で話が聞きたくてね。ジャーナリストなんだ。もちろん知ってる、ジャーナリストだってことは。誰とも話したくないと言ってある。御足労いただいたね。出て行ってくれ。18年前、あんたのインタヴューを使ったんだ、特集でさ…。「東西対立」だろ。それだよ。ひどい記事だった。お門違いも甚だしい。そうかい、ピーボディ賞は意見を異にしてるようだぜ。ピーボディ賞? ああ。人の生き死にとくだらない賞とを一緒にするのか? 金なら出す。どうだい? 俺に金を出すって? 俺の視界から消えろ。さもなきゃぶちのめすことになる。それなら警察呼ばなきゃならないよ、刑事さん。ほう、あいつらが駆け付けてお前さんのために仕事してくれるとでも? 俺は自分の仕事をしてるだけだろ? あんたを探し出した。白人が黒人を撃ち殺す。悪いのは誰? 脅そうってのか? いや、なぞなぞだよ。白人が黒人を撃ち殺す。悪いのは誰? 分かんねーよ。答えはな、もっと「たず」ねろだ。ビギーの件と何の関係があるんだ? それが考えてたことだよ。ダリウスが部屋を出て行く。次はノックしてくれよ。ノックはしたって。

 

2015年。ロサンゼルスにある新聞社の記者ダリウス・ジャクソン(Forest Whitaker)は、1997年3月に発生して未解決となっている、ラッパー「ノトーリアス・B.I.G.」ことクリストファー・ウォレス(Jamal Woolard)の殺害事件の記事を担当することになった。ノトーリアス・B.I.G.は、メロディアスなラップで知られ、ニューヨークを拠点に東海岸を代表するアーティストだった。ロサンゼルスのピーターセン自動車博物館で行われたイヴェントに参加し、車で会場を離れた直後、横に付けた自動車の実行犯から4発の銃弾を撃ち込まれた。彼のライヴァルと目された西海岸を代表するラッパーのトゥパック・シャクールがラスベガスで殺害されてわずか半年だった。ダリウスはロサンゼルス市警で事件を担当した元刑事ラッセル・プール(Johnny Depp)のもとを訪れる。ラッセルは引退後もクリストファー・ウォレスの殺害事件を追っていた。ラッセルは、クリストファー殺害の9日後、現場から13キロの地点で起きたあおり運転をめぐる射殺事件の現場に赴いた。殺害されたケヴィン・ゲインズ(Amin Joseph)は非番の警官で、正当防衛を訴える銃撃犯もまた覆面捜査官のフランク・ライガ(Shea Whigham)だった。ラッセルはゲインズがストリート・ギャング「ブラッズ」のメンバーであるとともに、トゥパック・シャクールが所属したデス・ロウ・レコーズを率いるシュグ・ナイトに雇われていることを知る。だがラッセルは上司のオシェイ警部補(Dayton Callie)から警官同士の事件の早期幕引きを命じられる。

ラッセル・プールはロサンゼルス市警の腐敗に切り込む捜査を全うしようとして免職となり、家族との関係も断たれることになった。息子の野球の試合をスタンドの高い位置で、他の観客から離れて1人眺める姿は、彼の孤高を象徴する。Johnny Deppが清廉な人柄の(元)刑事を魅力的に演じた。

銀行強盗に関与した警察官D・マック(Shamier Anderson)が、FBIのダントン(Laurence Mason)から取調を受けた際、金の在処を白状しないと15年は収監されると告げると、俺の周りの連中は終身刑がざらだと「15年」など意に介さない。

 米国の刑務所では、鍵付きの狭い空間に複数の受刑者が閉じ込められ、常に監視の目にさらされている。日本のそれと比較すると自由度は高いが、それでも社会との接触は限られている。搾取や暴力から逃れることもできない。たとえば受刑者の労働賃金は「塀の外」の10分の1であるにもかかわらず、電話料金は数十倍だ。頻発する暴力沙汰(性暴力を含む)を看守は見て見ぬフリをする。
 こうした状況を後押ししたのは刑事政策だ。特定の薬物を取り締まる政策が導入され、軽犯罪に対する収監の長期化が進み、「スリー・ストライクス・ルール」(窃盗などの軽犯罪でも3回目には終身刑になる)などの影響で、終身刑を含む、長期刑の受刑者が激増した。保護観察中の報告義務違反など、ささいな理由による累犯者の再犯率が7割を超え、親が在監中の子どもは全米で500万人を超える。そのなかで黒人の貧困層の割合が高いのは、「現代版奴隷制」にほかならないという見方も社会に広まっている。(坂上香「回復/修復に向かう表現 「監獄」展覧会 米国を反映」『毎日新聞』2022年8月9日夕刊3面)