映画『黒い司法 0%からの奇跡』を鑑賞しての備忘録
2020年のアメリカ映画。
監督は、デスティン・ダニエル・クレットン(Destin Daniel Cretton)。
原作は、ブライアン・スティーブンソン(Bryan Stevenson)の回顧録『黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う(Just Mercy: A Story of Justice and Redemption)』。
脚本は、デスティン・ダニエル・クレットン(Destin Daniel Cretton)とアンドリュー・ランハム(Andrew Lanham)。
原題は、"Just Mercy"。
ウォルター・マクミリアン(Jamie Foxx)が伐採の仕事を終えて帰路に就くと、数台のパトカーが回転灯を点けて行く手を封鎖している。複数の警官が銃を構える中、保安官のテイト(Michael Harding)が近づいてくる。ウォルターは努めて愛想良く対応するが身に覚えない嫌疑に動転する。テイトはウォルターを車から降ろし、逮捕する。
ハーバード・ロー・スクールに在籍するブライアン・スティーブンソン(Michael B. Jordan)は、法支援センターのインターン。死刑囚のヘンリー・デイヴィス(J. Alphonse Nicholson)に接見して、来年いっぱい刑の執行はないと告げると、彼は家族と面会できると大喜びする。ブライアンは同年齢の黒人死刑囚の置かれた状況に衝撃を受ける。2年後、ロー・スクールを修了したブライアンは、母クリスティ(Jacinte Blankenship)の反対を振り切り、アラバマへ向かう。死刑囚ら黒人収監者の法的支援を行う組織を起ち上げることにしていた。現地の協力者であるエヴァ・アンスリー(Brie Larson)が事務所に押さえていた物件は、マンションの管理人(John Lacy)の反対で利用することがかなわなかった。そのため、エヴァの夫(Dominic Bogart)の理解を得て、当面はアンスリーの家を拠点に活動を行うことにする。死刑囚の接見に向かったブライアンは、弁護士であるにも関わらず、囚人に対するような身体検査を受ける。黒人に対する偏見が刑事手続を歪めていたため、ロンダ・モリソン殺害事件のウォルターをはじめ、ブライアンが接見できた死刑囚たちは弁護士や司法制度に対する信頼を失っていた。その中で、少女爆殺事件のハーバート・リチャードソン(Rob Morgan)だけはブライアンの真摯な姿勢に期待を寄せていた。ハーバートはベトナム戦争で潰滅したある部隊の唯一の生き残りで、精神を深く病んでいたが、彼の心神耗弱は一切配慮されることはなかったのである。ブライアンは、ウォルターの有罪の証拠が、重罪事件で収監されているラルフ・マイヤー(Tim Blake Nelson)の証言のみで、物的証拠も一切ないことを知る。ブライアンは検事のトミー・チャップマン(Rafe Spall)のもとを訪れ、捜査資料の開示を求める。だがブライアンの合理的な指摘にも関わらず、チャップマンは、前任者の事件であり、その「解決」が遺族や町の平和をもたらしたことを理由に事件の再調査には否定的だった。
ブライアン・スティーブンソン(Michael B. Jordan)とウォルター・マクミリアン(Jamie Foxx)の前に立ちはだかる難題が次々と現れるだけでなく、ハーバート・リチャードソン(Rob Morgan)をめぐるエピソードが、本題とは別のヤマ場をつくり、2時間を超える作品を長尺だと感じさせない。
冤罪を生み出して事件の解決を図ることは、無辜の人権を奪うだけではなく、真犯人を野放しにすることになる。そのような当然のことが正義を司ることになっている人間に等閑に付されていることが何より恐ろしい。同様のメッセージは、Clint Eastwood監督の『リチャード・ジュエル(Richard Jewell)』(2019)でも描かれている。
ヤジ排除に対する警察官の排除行動や、検察官の定年延長をめぐる問題などの報道に接するにつけ、この映画の描く内容はけっして太平洋を隔てた遠い対岸の出来事では無く、現在の日本と地続きだ。
Brie Larsonには、「キャプテン・マーベル」感があるので絶対立ち向かってくれるという安心感がある。