映画『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を鑑賞しての備忘録
2022年製作の日本映画。
82分。
監督は、竹林亮。
脚本は、夏生さえりと竹林亮。
企画は、夏生さえり、竹林亮、ぶんけい。
撮影は、幸前達之。
照明は、久保田圭。
録音は、大高真吾。
美術は、三枝晃子と岡崎アミ。
衣装は、飯間千裕。
ヘアメイクは、MARI。
劇中漫画は、やじまり。
編集は、小林譲と竹林亮。
音楽は、大木嵩雄。
夜。新宿の高層ビル群を臨む雑居ビルの屋上。仕事が終わらず約束をすっぽかした吉川朱海(円井わん)が恋人に詫びの電話を入れている。ごめん、ほんとにごめん。次、埋め合わせするから。木本貴子(しゅはまはるみ)、分かるでしょ、大御所の。転職するの、憧れのとこに。この仕事、うまくやり遂げたい。…うん、分かった、明日の夜ね。
吉川が自分のデスクで目を覚ます。PCは起ち上がったまま。神田川聖子(島田桃依)が部屋の天井灯のスイッチを入れて自分の席に着く。10月25日月曜日。午前9時を15分ちょっと過ぎている。机の並ぶ部屋の椅子や床で同僚たちが眠っている。よしッ! 吉川が自分の顔を叩き、気合いを入れる。同僚たちも起き始める。遠藤拓人(長村航希)が今日、日曜だっけと呟いて、村田賢(三河悠冴)に月曜日だと訂正されている。突然の衝撃音に皆が窓に目をやると、白い鳩が衝突して転落するところだった。窓際の椅子で眠っていた平一郎(髙野春樹)がアイマスクを外して立ち上がり、木本の会社からの案件について毒づく。吉川のPCには味噌汁専用炭酸のCMの案を5つ追加で出して欲しいとの木本の会社の崎野雄大(池田良)からのメールが表示されている。向かいの席の森山宗太郎(八木光太郎)が吉川に今日、給料日だっけと尋ねる。来週です、と吉川が即答する。モーニン! 部長の永久茂(マキタスポーツ)が溌剌とした挨拶で職場に現われる。みんな泊まり? 若いねぇ。遠藤と村田がこそこそと吉川に近寄り、遠藤がここだけの話を始める。これから言うこと信じられないかもしれないけど、聞いて欲しいんです。僕たち、タイプループしてます。吉川は無反応。代わって村田が語りかける。この1週間繰り返してます。ごめん、聞こえない、声小さくて。吉川はプレゼンに出かける時間が迫り、企画案を必死で入力している。この1週間繰り返してるんです! 聞こえたけどよく分かんない。よく思い出して下さい、この仕事、無茶ぶりされたの何回目ですか? 何回って数えてらんないよ。遠藤がこれから部長がくしゃみをすると予告する。3、2、1…。カウントダウンが終わると、部長が大きなくしゃみをする。そして、郵便屋さんが間違えた荷物を持ってやって来ます。予告通り、郵便局員が段ボール箱を抱えて現われる。お届け物でーす、株式会社ドリームナヴィゲート…。うちじゃないですっ、下の階。神田川が即座に冷たく遇う。あのさ、仕事つまんないの? 吉川は遠藤と村田を嘲るように見て吐き捨てる。突然、部長が立ち上がる。みんな、今週もイケイケドンドンで頑張りましょう! 元気に声を張り上げるが、全員無反応。…なんて言っても分かんないかぁ。トホホ。ああ、もうやだやだ、50歳なんかなりたくないよぉ。時よ、とまれーッ! 部長が力なく笑う。吉川が向かいの席の森山に後はプレゼンで何とかするからと言い渡し、遠藤には資料をまとめてメールするよう言いつける。吉川が席を立ちバッグを掛けると職場を出て行く。遠藤と村田が危険だから絶対にタクシーには乗らないようにと吉川に声をかけるが、吉川は2人を相手にすることなく行ってきますと立ち去る。
吉川は乗車したタクシーが事故を起こし、プレゼンに向かうことが叶わず、額の傷を縫って職場に戻ってくる。プレゼン行けなくてすいません。悄気る吉川。遠藤と村田が吉川に近付き、語りかける。吉川さん、もしタイムループしてるとして、原因って何だと思います? おそらく部長です。
広告代理店に勤務する吉川朱海(円井わん)は、広告業界の大立者・木本貴子(しゅはまはるみ)に憧れを抱いていた。吉川は、味噌汁専用炭酸のCMを手土産に、木本の経営する会社への転職が決まっている。映像資料を作れとか急遽追加で5案欲しいなどと担当者の崎野雄大(池田良)から無茶な注文が次々と入るが、吉川は期待に応えようと必死で恋人もほったらかし。同僚とともに会社に泊まり込んだ吉川が月曜の朝にデスクで目を覚ます。プレゼンまで残りわずか。気合いを入れたところで、窓ガラスに白い鳩が衝突して大きな音を立てて皆が驚く。出社した部長の永久茂(マキタスポーツ)が皆が泊まりだったことに感嘆の声を挙げる。必死に資料を制作していると遠藤拓人(長村航希)と村田賢(三河悠冴)がタイムループして同じ1週間を繰り返していると吉川に告げ、部長や誤配を予測して見せる。だが吉川は、2人はやる気が無いと冷たく遇う。タクシーは危険だと訴える2人を無視して出かけた吉川は、タクシーで事故に遭い、額を縫って帰社する。プレゼンもできず意気消沈した吉川に、遠藤と村田が、年を取りたくない部長の妄念が、願いを叶える石のブレスレットにタイムループを引き起こさせていると告げる。
吉川の仕事への熱意は、同僚との温度差を生じさせ、自分の努力や能力を評価してくれる環境を目指したいとの気持ちを高める。その結果、仲間たちへの配慮が薄れてしまう。
吉川と対置されるのが、永久部長である。道化を演じたり、飲みに誘ったり、職場がギスギスしないように常に気を配っている。真っ先に退社するのも、超過勤務になりがちな部下たちが帰りやすくするためだ。そんな部長は部下から評価して欲しいなどとはおくびにも出さず、それどころか無視されても明るい態度を一向に崩さない。
タイムループが表わすのは固定観念だ。こういうものだという悪い意味での諦めが停滞を生み出す。実は存在している状況打開のきっかけに対する気付きを作品は訴える。
映画の(繰り返しの)鑑賞はタイムループの体験だ。同じ映像=世界が繰り返される映画から違うものを酌み取ることができるのは、鑑賞者だけが意識を変化させることができるからだ。タイムループものの映画においてループに気付く登場人物たちとは、映画の鑑賞者に等しい。